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2013年


5月25日


ネットの求人掲示板で運送の仕事を見つけた。
日払いで3万円、しかも仕事が終わり次第終業という待遇は異例的であった。
さらに、勤務地は自宅から車で10分程進んだ場所であった。
これほどのよい案件はない。
そう熊木は思い、掲示板に記載されていた電話番号に連絡した。
すぐに仕事ができることを伝えると、相手はすぐ勤務地に車で向かってほしいと
言った。
そう言われたので、PCを終了させてアパートを出た。
静かに翳る ed画像
10分程市内の町中を走行し、指定されていたY山の入り口の山道に車を止めて雇い主を待った。
腕時計--どこかのブランド製品を模したらしい安物の時計--で5分の経過を確認したとき、山道の入り口に男が姿を見せた。
「熊木さんですね」
それを確認すると男はすぐ仕事内容の詳細を説明し始めた。
熊木は相槌を打ちながら、その手順を頭の中に描くが、描くまでもないと思い途中でやめた。
拍子抜けする程簡単な作業だった。
「これ、使って下さい」
そう言われて熊木は、男から軍手を手渡された。
然したる会話もないまま二人は車に乗り込んで山の奥を進んだ。
バックミラーに映る男は、常時口元に微笑を浮かべていた。
よっぽど人手が見つかって嬉しいようだ。
無理もないな、と熊木は思う。
掲載記事のあった掲示板は、誰が来るんだ、と思えるようなーーそれこそウェブという細かく分岐された蜘蛛の巣の末端
にあるようなーー僻地にあったし、サイトの作りも粗末だった。
おまけにアクセス数の表示も異常に低かったから、できてまだ日が浅いのだろうと思ったものの、
最新の掲載日時に「2007年10月13日」とあった。
つまり、6年前からあのサイトは既に存在していたらしい。
ページに辿り着いたとき、ネットの世界にもこんな場所があるのか……と熊木はしみじみ思った。

なんだろう。
後部座席から流れてくるもの。
高さ低さの異なる音が緩いリズムに乗って、一つ連なっている。
ということは、何かの歌。
歌詞はないようだが、それは鼻歌だからだろうか。
詳細は察し得られないが、
「気分がよさそうですね」
山の中腹に来た頃、何か反応した方がいいと判断し、熊木はそう口にした。
「ええ。あなたが見つかってよかったですよ。私は自動車も運転免許も持っていないので助かります」
男は淡々と答えてから、再び熊木の聞いたことがないメロディーを口ずみだした。
山道はいつから緑に埋めつくされていた。
進行を阻むように下草が繁茂している。
薄らと二本の轍が葉の隙間から土の色を覗かせていたが、この辺りを人が行き来することはほとんどないようだ。
彼はこの山の所有者なのかもしれない。

鳥道を進むたび、車体ががたがたと揺れる。
それ以外の音はなかった。
例外として男の鼻歌があるだけだ。
「……なんだか不気味な歌ですね」
男はそれを聞くと軽く笑い「知人も同じことを言ってきましたよ」と答えた。
答えてから、この辺りで止めてくれと言いい、熊木はそれに従ってゆっくり速度を落とした。
「こっちです」
その声のする後ろを歩いていくと、眼前に荒れ果てた建物が現れた。
その外観から荒廃以前の姿を想像することはできなかった。
一体、誰がなんの目的でこの山に建てたのか。
それもまた想像に及ばなかったが、「施設」というよりは「私設(された建物)」という感じがした。
しかし、どちらのシセツであろうが、それは大したことではない。
何より強く感じるのは、
「この廃墟は、異質な気配を醸し出している」
ということだ。
熊木は少しばかり尻込みした。
そんな心境とは裏腹に男は、一抹の躊躇すら見せず、その廃墟の中へ足を踏み入れた。
仕事だ、仕方ない。
熊木は男の後に続いて、半壊した建物の入り口を通り抜けた。

「ーーこれを運んで下さい」
指差されたさきに、黒いビニールで包まった塊があった。
内部の開けた場所にそれは一つだけあった。
熊木は言葉を詰まらせる。
だが、お願いしますと促されたので、何も口できないまま黙々とその塊を運んだ。
先に戻っていた男は車のトランクを開けていたので、そこへ徐に荷物を乗っけて、車内に乗り込んだ。
これで仕事は終わりだが、最後に雇い主を車で指定された場所へ送り届けなければならなかった。
これも歴とした「運送」だから、来たときのように自分で勝手に帰ってくれとは言えない。
むしろ、3万という給与なのだから、それくらいして当然である。
「ここまで運転してもらえますか」
地図に示された場所を目指し、熊木は車を走らせる。
市内を抜け、海沿いの町の住宅街で男と荷物を降ろした。
「ありがとうございました」
男は今日中に銀行の口座に3万円を振り込んでおくと言った。
また今ここで手渡すこともできるとも言った。
「じゃあ、今もらっときます」
熊木は労働、というには生易しい労働の報酬を受け取り、一礼してその場を去った。

静かに翳る ed画像
運転中、熊木は考えていた。
あれはなんだったのだろうと。
重さにして三十、いや四十キロはあった。
ビニールが分厚く、形状はいまいち分からなかった。
車まで運ぶのに一苦労した。
しかし、苦労といえばそれだけで、こうしてきっちりと2万円を稼ぐことができたのだから、不平を言うつもりはない。
ただ、やはり疑問が残った。
--異様と言えば、あの廃墟もそうだ。
内部の空気は妙に肌寒く淀んでいて……なんとも陰気な場所だった。
あれは一体なんだろう。
熊木は自宅に到着するまで間、頭にこびりつくその謎を解明しようとした。
しかし、考えても無駄なように思い、すぐやめた。
気分転換しようと近所のパチンコ屋に寄り道して、つい先程貰い受けた3万円の内いくらかを娯楽に費やした。

静かに翳る エッグ

これは、没になった物語の冒頭部分だよ。

静かに翳る 動物人間

熊木ってのがいるな。

静かに翳る エッグ

うん。 これは、Y山の麓で男(=葉一)が熊木に死体(=有原あずさ)を運ばせているシーンで、「鼻歌」というキーワードを印象付けるために書いたものなんだ。

静かに翳る エッグ

この「鼻歌」とは、葉一が川のなかで聴いた音楽のメロディと同じもので、涼子が葉一失踪時、唯一の手がかりとする要素だったんだ。だけど、うまく処理できず、カットしちゃったんだよね……?

静かに翳る MADOROMI

ふんふ~~ん♪

静かに翳る 動物人間

ごまかしてんじゃねーよ!!!

静かに翳る MADOROMI

フガッ…!! ゴホゴホッ!! オ゜ェ゜エ゜エ゜!!!(鼻の穴に指を突っ込まれ、そのまま投げ飛ばされる)

静かに翳る エッグ

そんな乱暴なことしたらだめだよ!!

静かに翳る 動物人間

おらおら!! スクラブルエッグにしてやる!! おらおら!!

静かに翳る エッグ

えーんえーん、やめてよぉ! 弱いものいじめばっかしないでよ!

静かに翳る 動物人間

おらおら!! スクラブルエッグにしてやる!! おらおら!!

静かに翳る エッグ

もぉやめてよぉ!!! えーんえーん

静かに翳る 幻の麻野

その辺にしておきなさい。

静かに翳る 動物人間

おらおら!! 馬刺しにしてやる!! おらおら!!

静かに翳る 幻の麻野

やめて!!!

静かに翳る MADOROMI

続きます。

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