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2013年


8月22日


ほのかとミニトマトを食べた後、ジュースを飲み干し、外に出ることにした。

外に出た後は、Y山に引き寄せられるように歩いていた。

葉一は、河原で涼みたい思いで頭がいっぱいだった。

「ねえ、知ってる? 人間ってほとんど水で出来てるんだって」
「へえ、そうなんだ。初めて知った」

「だから、あたし考えたの。人間って、海や川の仲間なんだなって」

その発想に感心し、葉一は「よく思いつくね」と返事した。
「お母さん、私のこと変わってるって言うけど、葉一くんは、どう思う?」

「僕?」

「うん」

考えるまでもなく、ほのかが変わっているだなんて、思った試しはなかった。

Y山に一人行くことも、お菓子がミニトマトなのも、みんな何かしら理由がある。

以前、ほのかが葉一に下校が遅いことを訊ねたが、葉一もまた「実は、
こうなんだ」という理由を持っていた。

誰しも、そんな理由から、一見して変わった行動をとる。
でも分かってしまえば、それら皆、至って普通で、納得のできるものなんだと葉一は思う。
それを伝えると、ほのかは「葉一くんこそ、よく考えられるね」と言った。



河原はいつものようにしんと静かで、川の心地よい流れだけが聞こえていた。

ここには、特別な何かがあると葉一は思う。

初めて神社の境内に足を踏み入れたとき、ここは他の場所ーー家の中や住宅街や公園やスーパーや、
今までに訪れたことのある場所ーーとは、少し違う、そんな雰囲気が肌で感じられた。

なんとなく、それと似ている気がした。

だから、そんな場所に一人佇んでいるほのかに出会ったことは衝撃的だった。

あの時抱いた気持ちは、今も尚、深く胸に刻まれている。
なんというのか、心の中にススキの群落があって、それがさわさわと揺れているような、不思議なものだった。


ほのかは、浅瀬に入り、水を素足で蹴っていた。

葉一も、靴を脱いで、ひんやりとする川の中へ進んだ。

しゃがんで、大きな石の裏を覗き込んだり、水生昆虫や小魚を見つけて捕まえようとしたり、
二人は、日が暮れるまで趣くままに遊んだ。

静かに翳る ed画像
「ーーあたしね、一人の時、この川に潜っているの」
葉一は、西日の中に立つほのかの方を向いた。
ほのかは、胸の奥にあるものをゆっくりと言葉に変えていく。

ほのかの父親は、Y山で死んだ。

母親は、彼女にそこで死んだとだけ言った。

死因や理由を伝えることはなかったという。

本当のことを教えてはくれなかったそうだ。


「でも、あたしは知っているの」とほのかは言う。

父親は重い病にかかっていた。

隣町の総合病院へ通っていたが、ある日、医師から自身の患う病が治らないことを告げられ、
余命も宣告された。

「お父さん、それを私には内緒にしていたの。でも、当時のあたしは何か隠してるんだと感づいて、
何度も訊ねてみた」

だが返事をせず、父親はただ笑っていた。
すぐ良くなると。

ほのかを安心させるためだった。


「お母さんとお婆ちゃんが、話してた。義之は、変わり者だったって。
ほのかは、お父さん譲りねって」


「どんなところが、変わっていたの……?」


葉一は、気になって訊いてみる。


「実は、あたしも同じことを考えてたんだ。お父さん、普通じゃんって」

義之は病院を抜け出し、一人Y山に足を運ぶことがあった。

息絶え絶えに森の中を歩き、頂上を目指した。

そこには老朽化した住居があった。

住んでいるものはいなかったが、義之に必要なものが一つあった。


「ーーピアノがあるの」


自宅にもあるのに、わざわざ山奥へ入る義之のことを、ほのかの祖母は

「きっと、気遣わせると思ったんだねえ、義之さんは。あれでも、真面目な人だったから」

と話していたそうだった。


Y山はもともと義之の知人に所有権があったが、
「お前にやるよ」と言葉の上で譲り受けていたので、
実際義之のもののように扱われていた。

今は荒れ果て、とても生活のできる環境ではないが、
当時、頂上にある住居は、一夜を明かすには打って付けで、さながら義之の別荘だったそうだ。


「ある日、お父さんのお見舞いに、病院に向かったの。でも、病室にお父さんの姿がなくて、
あたし、どこに行ったんだろうって不安になった。それで、辺りを一人で探し回ったの」


しかし、義之の行方は分からなかった。

自宅に戻り、母親や祖母にその事態を知らせたが、彼女たちは鷹揚としていたという。

「きっと、二人とも、お父さんが病院を抜け出してY山に行っていること、知ってたんだ」


だが、ほのかは「大丈夫、すぐ帰ってくる」と言う母親の言葉を信じることができなかった。

それだけ心配だった。


「だからね、また探しに家を出たの。当てもなく、でも、必死にね……」

もしかしたら。

そんな気持ちがして、ほのかはY山に足を踏み入れた。

なぜだか分からなかった。

でも、Y山に父がいるーーそんな気がしたのだ。


「泣きべそかいて不安に押し潰されそうだったけど……でも、不思議と迷わず森の中を進む
ことができて、日が沈んで薄暗くなった頃、ここに辿り着いたの」


ほのかは、心細くなって、河原の石を蹴ったりしながら、義之のことを考えていた。


「それで、自然と川の方に足が進んで、今みたいに浅瀬に立った」

その時--。
ほのかは流れに足をとられ、全身の自由を奪われた。


「すごく怖かった。息ができなくて、あたし、必死にもがいていた」


ほのかは、口を閉ざした。


「それから、覚えてないんだ」


少し笑って、ほのかは空を眺めていた瞳を葉一の顔に向けた。


「目覚めたら、河原にいて、もう辺りは暗かったの。でも、心細くなかった」


ほのかは、川で溺れたことを思い出し、それから、自分が助かったことを悟ったそうだ。


「あたし、お父さんが助けてくれたんだって思ってるの」


なんの根拠もないことだが、ほのかはそう信じていると言った。


その翌日、いつまでも病院に戻らない義之の捜索が始まって、一度も会えないまま、葬儀が始まった。


「悲しかった。けど、あたし、すごく腹がたったの。それでね、あたしーー」


もう一度、川に飛び込んだの。


ほのかは、そう言って苦笑いした。
「どうして?」

静かに耳を傾けていた葉一は、驚いて訊ねた。
「また……お父さんが助けてくれるかもって思ったの」
ほのかはそう言って顔を上げた。

おかしいよねと呟き、弱弱しく笑った。

「ううん。僕、おかしいと思わない」

「葉一くん、優しいんだね」
ぽつりとほのかは言った。
「その時ね」

不思議なことが起きたんだとほのかは続ける。
川の中で流れる水の音のその奥から、何かが聞こえたのだ。
それは、音楽のようだったという。
「息がもたなくて水面に上がったから、少しの間のことだった
んだけど……でも、それは夢のような心地ちよさがあって、
胸にじーんと響いたの。とても不思議な気分になった」
それが義之と関係があるのか考えたが、よく分からなかった。
だが、ほのかはその水中から耳に、そして心に伝う音楽の存在
に惹きつけられように、毎日Y山へ足を運んでいた。

「あの日から、水がすごく怖かったんだけど……でも、いつの間にか大丈夫になってた」
半ば、未知なる世界へ冒険するような気持ちで、ほのかは川に潜り、耳を澄ましていたそうだ。

「信じられないでしょ、音楽が聞こえてくるなんて」
「ううん」
葉一は、首を振った。
「信じてくれるの……?」
「うん。だって、そんな気がするもん……。きっと、聞こえるよ」

確かに信じられないような現象だとは思うが、ほのかが嘘付くはずがないし、
自分もそう信じたいと葉一と考えていた。
「これ、誰にも言わないでね?」

「うん、もちろん」

「あ、でも、マニアくんになら、教えてもいいよ」
「マニア? どうして?」
「いつも、一人でいるでしょ? 仲間はずれにされてて……かわいそうだから」
「分かった。いつか誘ってみるよ」

ほのかに続き、葉一は山の頂上を目指した。

話に出て来た、住居とピアノが本当にあるのだと思うと、胸がどきどきした。
「ここ」
指差されたその先に、半壊した建物があった。

想像していた以上の荒廃ぶりに、葉一は恐ろしいような悲しいような、複雑な
感情を抱いた。

導かれるままに、内部に足を踏み入れ、ピアノのある空間に入った。

ピアノは比較的綺麗で、まだ音がでそうな様子だった。

「弾いて上げようか?」

ほのかは、そう言って、鍵盤の上に白い両手を乗せる。

水の中で聴いたという音楽が、徐に流れ始めた。

それは小さな光を彷彿させるた。

切なく、儚さを感じるようなメロディー。

3拍子の短い旋律は、いつまでも繰り返された。


永遠のメロディー。


葉一の頭の中に浮かんでいた言葉だ。

ほのかは言いはしなかったけれど、そんな題名が想像されていた。

いつまでも、聴いていたい。

ずっと、聴いていたい。


葉一はそう思い、微笑んだ。

ほのかも、静かに微笑んだ。










夏休みの間も、ほのかや菊岡との交流が続いていた。

いつまでも、こんな生活が続けばいいと葉一は願っていた。

菊岡がハワイ旅行に向かう前日、家出をして学校や近所の人々を騒然とさせたり、
その行方をほのかと一緒に探し、発見した町の高台で大人に見つかるまで花火を眺めたり、
新鮮かつ刺激的な出来事が、めまぐるしく葉一を取り巻いていた。

そんな日々の流れの最中、ふとカレンダーを見れば8月も残りあと僅かだった。

明日は、8月24日。

葉一の誕生日だった。

なにやら、菊岡が「誕生日会」なるものを開いてくれるらしく、明日はその主役として彼の豪邸に招かれる予定だった。

「前々から、あの時の恩返ししなくちゃって思ってたんだ」

そう口にした菊岡は、葉一がいつぞやの「ずる休み」を黙っていたことに対して、
根強い感謝の念を抱いているようだった。

その恩返しが、今回の誕生日会なのだそうだが、そんな大したことをしたつもりじゃなかったのにな、
というのが葉一の本音だった。

「いいの? 本当に」

「うん、当たり前じゃんか」

きっぱりと菊岡はそう言って、得意気ににやりと笑った。

「ありがとう、すごい楽しみだよ」

そんな会話が誕生日を目前にする葉一の頭の中で、何度も繰り返されていた。

相変わらず、一階のタムロ部屋からは、広史たちの猥雑な声が響いていたが、
それでも尚、葉一の胸が弾んでいた。

こんなにもわくわくした気持ちで眠れないというのは、とても幸せなことなんだ、きっと。
葉一はそう思い瞳を閉ざす。

うとうと微睡みながら、少しだけ想像してみることにした。

菊岡とクラスの生徒たち。

皆、笑顔で自分を祝福してくれる。

ほのかちゃんは、来るかな。

明日、誘ってみようかな。

葉一は幸せな夢に優しく包まれながら、深い眠りに落ちた。

8月24日。

朝、目覚めてすぐ、下の階で電話が鳴った。

珍しいと思いながらも、葉一は受話器を取った。

「もしもし」

「あ、葉一くん? おはよう」

その声は、ほのかのものだった。

少し驚いたが、お互いに同じクラスだから連絡網のプリントを見れば、
すぐに連絡を取り合う事ができた。

しかし、こうして受話器越しに言葉を交わすのは、これで初めてだった。
俄に胸がどきどきして、頭の中が無意味に騒がしくなった。

「おはよう。め、珍しいね、どうしたの」
「あのね、ピアノ屋敷に来て欲しいんだけど……」
「うん、いいよ」

「ほんと? よかった」

「あ、でも、その前にーー」

葉一は、ううんと咳払いをしてから、今日の一大イベントをほのかに打ち明ける。

「実は今日、菊岡くんが誕生日会を開いてくれるんだ。
だから、ほのかちゃんもおいでよ! 誘おうと思ってたところなんだ」
「そうなんだ、でも、あたしはちょっと……」
ほのかは、遠慮がちに答えた。

なんだか歯切れの悪い感じがして、葉一は違和感を覚える。
「なんで? 楽しいと思うよ、ゲームとかたくさんあるし!」
「あたし……いい。ごめん」
少し突き放すように呟き、ほのかは通話を切った。
葉一は何が起きたのか分からず、呆然とする。

一人、置き去りにされたような気分だった。

徐々に頭の中で状況整理が行われ、そこで初めて葉一は「何か悪いことをしてしまったんだ」
と自覚した。
しかし、何度振り返ってみても思い当たる節が見つからなかった。
せっかく誘ってあげたのにな……。
葉一はひたすら気を落とすばかりだった。

ピアノ屋敷に来てほしいと言っていたから、誕生日会が終わったら、いつものように
Y山の河原へ向かおうと考え、葉一は気持ちを切り替える。

今日は一年のうちで、もっと輝かしい日だ。

あまり沈んだ顔ばかり浮かべていては、菊岡たちに心配をかけてしまう。

ほのかのことはいずれ解決できると、葉一は楽観的に受け止めることにした。



菊岡邸に着くなり、菊岡は葉一の頭に賑やかな色合いをしたとんがり帽を被せた。

「主役は、こうでなくっちゃ」

満足した面持ちを浮かべると、菊岡は台所の方へ行ったり、2階へ上ったり、室内を忙しなく駆け回っていた。

それが落ち着いたなと思った頃、インターホンの音が鳴った。

「お邪魔しまーす」

玄関から、喋り声とともに2-1の生徒たちが姿をみせ、葉一のいるリビングに入って、好き勝手にソファやカーペットに
座り込んだ。
リビングは謂わば待ち合い室で、会場であるダイニングは、開始時間の午前10時になる
まで立ち入りが禁止されている。

「早く始まらないかなぁ」

総勢10数名に及ぶ、2-1のクラスの生徒たちは、各々くつろぎ、はしゃぎ、
時には葉一に話しかけ、午後10時を待ちわびていた。

葉一は、普段会話することのないクラスメイトから声をかけられることがとても嬉しかった。

「桐谷くんの桐谷って、かっこいいよなぁ」
とか
「今度、一緒にうちで遊ぼうよ」
とか、誕生日会が始まる前に、話すことが尽きてしまうのではないかーー
リビングには、そんな言葉の数々が溢れていた。

浮き立つ葉一の心は、ずでに満ち足りていた。

「はーい! 皆さん、お待ちかね! 葉一くんのお誕生日会の始まりだよ!」

わあ、と歓声が上がり、たくさんの拍手が重なりあった。

リビングとダイニングを隔てる扉が両脇に開き、ダイニングの様子が視界に広がった。

長いテーブルには、見た事もないごちそうが山のように用意されていた。

色とりどりの料理やデザート、その中央には、8本のロウソクとイチゴをふんだんに乗っけた
純白のケーキ。

「あ……」

葉一は、思わず声を漏らす。


ーー葉一くん、お誕生日おめでとう!


そう文字の綴られた、チョコレートの飾りが目に止まった。

感情の波が静かに押し寄せる。

「はい、皆、席について!」

司会者のように菊岡が葉一の横に立ち、咳払いする。

「えー、今日は桐谷葉一くんの誕生日会にご出席頂きまして、誠に、ありがーー」

「それより、早く、食べようぜ!」

男子が茶化し、皆がくすくす笑うと「静粛に!」という声が上がった。
なんだか先生のいない授業のようで、葉一は少し不思議な気持ちになった。
「わかったわかった。色々言う事考えてきたけど、お望み通り、まずは食事にしましょう」

「やったぁ、どれにしよう」
「よーし、食うぞー!」

「おいこら、まだ、だめ! その前に、お祝いの言葉を言いましょう」

「そうだった」という声を皮切りに、皆が目配せを始める。

菊岡がパチンと指を鳴らした。

すると、リビングの電気が消えて、ほとんど真っ暗になった。

びっくりとする葉一の視界の中央で、小さな灯火が一つ、二つと浮かび上がる。

それが、8つ揃ったときーー

「葉一くん、お誕生日おめでとう!」

全員の声が一つに重なりあった。

葉一は、薄闇の中で一人一人の顔を見回し、最後に菊岡の顔を見る。

「一気に吹き消してくれよな」

「う、うん」

皆に見守られる中、葉一は大きなケーキに顔を近づけ、よく肺に空気を送り込んでから、
ふう!と思い切り息を吹きかけた。

全部のロウソクの火が消えると、ぱっと室内の明かりがつき、拍手とおめでとうの言葉が
繰り返された。

葉一は、はっとする。

暗闇の中で気付かなかったが、いつの間にか、皆の手元に大小様々な小包があった。

「葉一くん、お誕生日おめでとう。これ、気に入るか分からないけど」

順番に手渡されるプレゼント。

葉一は言葉を失っていた。
温かな感情がひたひたと胸に迫り、涙腺を緩ませる。
「皆が真面目にやるから、葉一くん、困ってるよー!」

「感動してるんだって、こういうときはちゃんとやんなきゃ」
「静粛に! 葉一くんが泣いてしまわないように気をつけて渡して下さい!」
菊岡の冗談が葉一の心と身体を解きほぐす。

全員からプレゼントをもらい受け終わると、葉一の口元におもちゃのマイクが当てられた。
「何か一言お願いします」
「あ、うん。皆からこんなにも贈り物をもらって……とても嬉しいです」

唐突な感動に打ちのめされ、頭がまだ状況をよく理解していないようだった。

なんだかもう、感情にもみくちゃにされたようで、葉一の声はぐらぐらと震えていた。

「おい、そういえば、菊岡がまだプレゼント渡してねーぞぉ?」

そう声がすると、女子たちが、たちまち非難し始めたので、葉一は心苦しかった。

「おい、待ってよ、ちゃんとあるって! でも……みんなみたいな、物じゃないけど」

そうすると、どこからか、オルゴールのBGMが流れ始めた。

途端に室内は静かになり、菊岡が注目の的になった。

何が始まるんだ、という気持ちがその静けさに表れていた。
「えっと、実は――」
そんな言葉から、菊岡の話が始まった。
「僕はずる休みしていました。
いつも、風邪とか嘘ついてたけど……本当はどこも悪くありませんでした」

雰囲気のためか、野次を飛ばす者は誰もいなかった。

「でも、それを葉一くんは、黙っていてくれました」

気恥ずかしくなったのか、菊岡は頭をかく。

それから、ポケットから取り出したメモ用紙をちらりと見た。

「僕は、その時、葉一くんがとても優しいと思いました。
けれど、葉一くんの優しいところは、それだけじゃありませんでした」

訊きながら、なんだろうと葉一は思った。

「僕はある日、葉一くんと商店街で悪いことをする不良たちを見ました。小学5年生くらいの男の子からお金を盗ろうとしていました。僕らは逃げました。それから、大人に教えようと話しました。
でも、葉一くんは僕の意見に反対しました。なんでだろうと思いました。
帰ってから、お母さんに話をしたら、こう言いました。
きっと、葉一くんは、邦明に悪い被害が及ばないに考えてくれたんだよ。
どういう意味か訊いたら、葉一くんは邦明を守ろうとしてくれたんだ、とお母さんは答えました。
僕は、驚きました。驚いたし、偉いなと思いました」

ぎこちなく菊岡は話しを終え、皆は拍手をした。

オルゴールのBGMが止むと、ふっと気を緩めたように室内が賑やかになった。
「それで、菊岡のプレゼントってなんなの?」

「え、この話に決まってるじゃん」

真顔でそう答えると、「そんなのありかよー!」と男女関係なしに皆は立ち上がって、政治家みたいにざわめき始めた。

「よーし、それでは、皆様、ごゆっくりと食事をお楽しみ下さませ!」

ごまかすように菊岡は、そう声を上げた。

ああだこうだ言い合いながらも、皆はご馳走に舌鼓を打ち、切り分けられたケーキをぺろりと平らげ、
がやがやと学校の休み時間のような雰囲気で楽しい一時を過ごした。

午後3時頃になると、家の用事や習い事のため数人の生徒が席を離れ部屋を出た。

その度に、葉一と菊岡は玄関の外へ出て一人一人に手を振った。

そうやっている内に残りは男子数人だけになっていた。
食事を終えた後は、2階が主な遊び場になっていた。

菊岡の所持する大量のゲームの中でも、特に対戦型のものは大いに盛り上がり、葉一も手に汗握りながら
白熱し続けた。


「そろそろ、6時だし、終わろっかぁ」

そう菊岡が腕をぐっと伸ばし時計を見たときには、葉一たちの他誰もいなかった。

「うん。あっと言う間だったね」

葉一は、心地よい疲労を覚えた。

壁にもたれかかりながら、一日のことを思い返した。

「あんなにプレゼントをもらったの初めてだよ」

「そうだよなぁ、なんかうらやましいよ」

二人で話しながら、部屋の片付けをして、葉一はプレゼントの包みを開いていった。

色々な文房具。
手書きの絵。
キーホルダー。
怪談ものの本(これが一番気に入った)。

バースデーカード。
誰がどんなものをくれたのか菊岡と想像しながら中身を見るのは楽しかった。

もし、お菓子だったときは、二人で一緒に食べようと葉一は提案した。

幸福をもたらしてくれた菊岡への恩返しのつもりだった。

「恩返しの恩返しって、ややこしいよな」
「その次からはもっと、ややこしいね」

二人でひとしきり笑って、家の外に出た。

「そんじゃ、またね」

「うん、今日は本当にありがとう。もう、すごい楽しかったよ」

「俺も、楽しかった。久しぶりに遊べた子もいたし、いつか、またやりたいよ」

葉一は手を振り、プレゼントを仕舞い込んだ紙袋を片手に帰路に就く。



その途中で、ふと思い出した。

ほのかがかけてきた電話のこと。

葉一は、自宅に戻ったあとすぐにY山に向かうことにした。

しかし、プレゼントを持っていたためか、運悪く広史たちに絡まれてしまい、多くの時間を奪われた。
散々からかわれた挙句、タムロ部屋から解放されたのは、とっぷり日の暮れた後だった。
午後7時36分。
流石に、もうほのかは自宅へ戻ってしまっているだろう。
葉一は、精神的な疲労に耐えられず、
明日、行けなかったことをY山で謝ろうと思い、今日は部屋で心身を
休めることに決めた。

翌日。
階下で、再び電話が鳴り響く。
葉一は、ほのかからだと思い、すぐさま受話器をとった。
「もしもし?」
「もしもし、茂上です。葉一君かな? 朝早くにごめんね」
ほのかの母親からだった。
どうしたんだろうと疑問を抱く。
「昨日、ほのかと遊ばなかったかな」

「あ、昨日は僕、菊岡くんの家で遊んでいました」

「そう……」

少し間を空けてたが、先日、茂上家で庭掃除を手伝ったに対し、ほのかの母は再び礼を言い、「また、遊びに来てね」と言った。
特に、ほのかのことに触れないまま、通話が終わり、葉一は「なぜ昨日のことを訊くのだろう」と疑問を深まるばかりだった。



<夏の静かな時間>



突然のことだったが、ほのかの母は、葉一が理解できるようゆっくりと答えた。


「ほのかはね、Y山にある川で溺れてしまったの」


「Y山の川で……」


葉一は何もない真っ白な世界に放り込まれたようだった。

どんな感情を抱けばいいのか、心でさえ分からないようだった。

ただ、葉一は無力だった。
何もできない。
頭の中は虚ろで、心もおよそ空っぽだった。
小さく小さく……結び目のほどけた風船のように縮み込んだ気がした。

寿命さえ短くなったような気がした。


ーーほのかは、川で溺れた。


きっと、苦しかっただろう。

水中でもがきながら、必死で助けを求めたに違いない。

「あの日、ほのかは、すごく喜んでいたわ。今日、葉一君の誕生日なんだよって
朝食の用意をする私のところまできて、夢中になって話すのよ。私、なかなか
支度が進まなかったわ」

そう言って、思い返すように静香は視線を遠くに向けて微笑んだ。

だが、その仕草すべてが寂しげで、葉一は今にも泣き出したい気持ちになった。

「でも、電話をした後のあの子はなんだか沈んでいて、何も言わないまま外に
出て行ってしまったの。あんなに元気だったのにってちょっと不思議に思ったけど、
私、深く気にかけずにいた……それが間違いだったんだわ。あの時、私がちゃんと話を
聞いてあげていれば……」


葉一は、涙を押さえ込むように服の袖をきつく握りしめる。

熱いものが流れ出ないよう、奥歯を噛み締めていた。

全てを悟った。

ほのかがなぜ死んでしまったのか。

それは、あの時の放課後。


――あのね、ピアノ屋敷に来て欲しいんだけど……




あの時、ほのかの言うことを聞いて、Y山に行っていれば、

彼女が川に入ることはなかったかもしれない。
一緒にいれば自分がほのかを助けることができたかもしれない。



涙がぽろぽろとこぼれていた。
葉一は、こんなに辛いことはないと思った。

静香は葉一の背中を優しくさすりながら、
「大丈夫だからね」

「葉一くんは一つも悪くないんだよ」と語りかけた。

そのあやすような言葉の一つ一つが葉一の胸にじんわりと伝わった。
だが、葉一は自分を許すことができなかった。

絶対に許すことができなかった。




静かに翳る 動物人間

長いわ!!

静かに翳る MADOROMI

ごめんなさい。。幼少期の各種修正前のシナリオです。

静かに翳る エッグ

あのね、MADOROMIね、誕生日会のシーンでケーキのロウソクを一つ一つ付けて消していく画像がほしかったから不○家で買ってきて撮影しようとしてたんだよ~?

静かに翳る 動物人間

は?

静かに翳る MADOROMI

リアリティを……。

静かに翳る エッグ

お店の人に、チョコペンで葉一君って書いてもらう算段までしてたんだよ☆

静かに翳る 幻の麻野

これは驚きましたね……。

静かに翳る 動物人間

でも、結局シナリオ変更したから買わなかったわけか。

静かに翳る MADOROMI

そう。

静かに翳る エッグ

いいきかいだったのに。

静かに翳る MADOROMI

……。

静かに翳る MADOROMI

ガブガブ!!

静かに翳る エッグ

わ! やめてよぉ、いたいよぉー!涙

静かに翳る 幻の麻野

MADOROMIさん、ヌイグルミですよ……?

静かに翳る MADOROMI

ガブガブ!!(無心)

静かに翳る 幻の麻野

あの、そろそろいい加減にしないと警察呼びますよ?

静かに翳る エッグ

えーん、えーん。涙

静かに翳る 動物人間

はははは、こりゃ傑作だぜw(ざまぁww)

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