創作サークルぼんやりクラブ」へようこそ!

2014年


2月26日


葉一はほのかに会うため早起きしてY山へ向かった。
その間、6月の●旬、森の奥で見た光景が脳裏に浮かんでいた。
杞憂であってほしかった。
しかし、いつまでも漠然とした不安が付き纏い、頭から離れなかった。

一見してほのかは元気でいつも明るかった。
よく笑い、慌ただしく動き回る様は、どんなときも葉一を楽しませていた。
だが、彼女には秘密があった。
すでに疑問を抱くこともなくなっていたが、そもそも、なぜほのかは独りでY山へ訪れているのか……その答えは未だ謎のままだった。
そう考えれば、ほのかの内心にどんなものが潜んでいようとも、決しておかしい話ではない。
葉一のおかれる状況を踏まえれば、それは至って自然な考えだった。
誰かに話してしまわない限り、タムロ部屋や兄とその仲間の存在を知る者はいなかった。

もっとも、口に出してしまえば、それで解決するわけではない。
だが確実に気が楽になることを葉一は身を以て知っていた。
ほのかに胸の内を開けたとき、身体にのしかかっていた重荷が少し軽くなったような気持ちになった。

??胸奥に隠していたものを披露すること。
それは闇の中にある重たく淀んだものを、光溢れる日向へ晒すようなことに他ならない。
多少なりとも苦痛が伴うし、何より勇気が必要だ。
ほのかがいたから、葉一はそれができた。

今度は自分の番だ。
もしも、ほのかが苦しんでいるのなら、その苦しみを知って、一緒に背負っていこう。
それが葉一のできる恩返しであり、ほのかの平穏を願う、強い気持ちの表れだった。

森を抜け、河原に出てから辺りをぐるっと見回した。
ほのかの姿は見当たらなかった。
おそらく、あそこにいる。

葉一は河原を離れ、岩壁に挟まれる細い道を進み、その奥の手前で歩みを徐々に緩めた。
陰りに身を寄せ、耳をそばだてる。
すると、やはり声が聞こえた……。
それは荒い息遣いと混じりなら、途切れ途切れに発せられていた。

「……お父さん……うぅ……くるしいよ……」

苦しそうに呟かれる言葉は、必死に救いを求めているようだった。

「お父さん……どうして……最近……会ってくれなく……なったの……?」

「もっと……お話し……したいのに……」

「……あたし……だんだん……おかしくなってる……みたい……なの……」

「誰にも……話してない……けど……あたし……」

「自分を……止められないの……」

「……お父さん……ごめんね……」

「やめておけば……よかった……のにね……」

誰もいない場所で、しかし誰かに話しかけるかのように、ほのかは喋り続けていた。
それは異常で、葉一には恐ろしい光景にみえた。
身体が硬直して、その場から動けなかった。
ほのかの近づくだけの勇気がなかった。
全部削ぎ落とされていた。
ここから離れたい。
そう切望するも両足は鉛のように重く、小さく痙攣を起こすだけだった。

じゃり。
額から冷や汗が流れた。
俄に、身体中の血管がどくどくと脈打ち始めた。

??ほのかが、こっちに来る……。

じわじわと熱が込み上がり、それが汗となって溢れた出た。

一歩一歩、足音はゆっくりと近づいてくる。
葉一は、痺れたように感覚を失った両足を必死に引きずり、
ほのかから遠のこうとした。

「誰……? 葉一くん?」

その声にびくっと身体が反応し、葉一は弾かれたようにその場から走り出していた。
なんとか身体を動かすことができた……など、考える間は一寸たりともなかった。
本能に支配されるがままに、葉一は森を駆け抜けた。

「あら、葉一君じゃない。どうしたの、そんなに慌てて」

葉一は、偶然出会ったほのかの母親に、ちょっといいですか、と言って、茂上家に移動した。

リビングでお茶を用意してくれているほのかの母親を待つ間、葉一は徐々に鎮静する頭の中に浮かび上がる、先程耳にした言葉について考えた。

??お父さん……どうして……最近……会ってくれなく……なったの……?

??もっと……お話し……したいのに……。

??あたし……だんだん……おかしくなってる……みたい……なの……。

??誰にも……話してない……けど……あたし……。

??自分を……止められないの……。

??お父さん……ごめんね……。

??やめておけば……よかった……のにね……。

ほのかが今、どのような状況におかれているのかは分からない。
しかし、ほのかが苦しんでいた。
それだけははっきりと分かった。
そしてもう一つ。
あの言葉は全ては、彼女の父親に向けられているようだった。
まるで、その場にいるかのように、ほのかは懸命に話しかけていた。
一体、何がどうなっているんだ……。

「あらあら、難しい顔して。ほのかと何かあったのかしら」

「あの……ほのかちゃんのことで、話したいことがあるんです」
そんな出始めで、葉一は先程の見たものと合わせて●月の●旬のことを話し、それが気がかりであることを伝えた。

「それは……間違いないのね?」

「はい……。さっきは怖くなって、僕、逃げ出してしまったんです。本当は、ほのかちゃんに直接話を訊くつもりだったのに……」

「それで、あんなに慌てていたのね」

ほのかの母は口を閉ざし、少し考えてから、真剣な眼差しを葉一に向け、語り始めた。

「やっぱり、まだ癒えてなかったのね……」

「いえてなかった……?」

「ええ。実はね??」

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義之が亡くなったのは、今からおよそ一年前??ほのかが1年生になった頃だった。[l][r]
その数年前から持病が悪化していたため、通院を余儀なくされていた。[l][r]
それでも、義之はほのかの遊び相手になり、彼女のために尽くしていた。[l][r]
だが、病状が悪化し、余命が僅かであることを医師から宣告されてからは、
ほとんど病室で寝たきりの生活を強いられていた。[l][r]

ある日、Y山の奥部で、伏すように倒おれる義之の身体が発見された。[l][r]
彼が病室を度々抜け出していたことは、医師や家族から黙認されていたが、いつまでも義之が戻らないので、その日の前夜、捜索が始まったところだった。[l][r]
急いで病院へ運ばれたが、彼が息を吹き返すことはなかった。[l][r]
医師は家族へ、死因は持病によるものだと告げた。[l][r]
それから葬儀が始まり、ほのかも彼の死を見届けた。[l][cm]
[backlay]

・大好きだった
・元気に振る舞っていた でも傷まだあり





[r][r][r][r]
??ほのかの父親は、Y山で死んだ。[l][cm]

どこか独り言のようだったが、一度開いたその唇が長く閉ざされることはなかった。[l][r]
じっと耳を傾ける葉一の横で、ほのかは往時の日々へ歩み寄るように、その胸中を打ち明けていった。[l][cm]

[backlay]

[image storage="ベッド.jpg" page=back layer=base]
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[playbgm storage="父.ogg" loop=true]
彼が亡くなったとき、ほのかの母親は、そこで死んだとだけ告げたそうだ。[l][r]
死因や理由を教えてはくれなかったという。[l][r]
しかし、ほのかは悟っていた。[l][r]
ほのかの父、茂上義之が重い病にかかっていることを。[l][cm]
義之は隣町の総合病院へ通っていたが、ある日、医師から自身の患う病が治らないことを告げられ、余命も宣告されていた。[l][r]
ほのかが、その事実を知ることはなかったが、当時の彼女は、父が何かを隠していることに感づき、何度も尋ねたという。[l][r]
彼はそのとき、返事をせず、ただ笑っていた。[l][r]
すぐ良くなるとだけ答えたそうだ。[l][r]
ほのかを安心させるためだった。[l][cm]

そんな折、義之は病院を抜け出し、一人Y山に足を運ぶことがあった。[l][r]
息絶え絶えに森の中を歩き、頂上を目指した。[l][r]
そこには老朽化した住居があった。[l][r]
住んでいるものはいなかったが、義之に必要なものが一つあった。[l][r]
ピアノだった。[l][r]
自宅にもあるのにも関わらず、義之はわざわざ山奥へ入った。[l][r]
それは、家族に気遣われることを厭う、彼の性質を物語っていた。[l][r]
また、そうすることで、我が身に訪れる死を静かに見つめていたのだった。[l][r]

もともと、Y山の所有権は彼の父にあった。[l][r]
代々引き継がれてきた土地であるため、その歴史は古く、かつて茂上一族の住まう集落があった。[l][r]
しかし今はその面影はなく、山には一面深い木々が群生していた。[l][r]
唯一現存するのは、頂上の住居のみであった。[l][r]
まだ若かった義之の別荘として利用されていたが、彼が亡くなってからは、管理がなされず、荒廃の一途をたどっていた。[l][cm]
[backlay]
[image storage="白黒河原.jpg" page=back layer=base]
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「ある日、お父さんのお見舞いに、病院に向かったの。でも、病室にお父さんいなくて、
あたし、Y山へ探しにいった」[l][r]

度々、義之は、ほのかをY山に連れて行き、川で遊ばせていた。[l][r]

「でも、その時は独りで、しかも辺りが暗くなっていたから、ちょっと寂しくて、半べそかいてたんだ」[l][cm]



しかし、Y山に義之の姿はなかった。[l][r]
ほのかは心細くなって、それを紛らわせるように浅瀬に進んだ。[l][r]
その時??[backlay]
[image storage="白黒川中.jpg" page=back layer=base]
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ほのかは流れに足をとられ、全身の自由を奪われた。[l][cm]

「すごく怖かった……。息ができなくて、あたし、必死にもがいてた」[l][r]

[fadeoutbgm time=1000]
ほのかは、ふっと脱力するように、口を閉ざす。[l][r]
[backlay]
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「それから、覚えてないんだ」[l][cm]

ほのかは空を眺めていた瞳を、葉一の顔に向けた。[l][r]
「目覚めたら、河原にいて、もう辺りは暗かったの。でも、心細くなかった」[l][r]
ほのかは、川で溺れたことを思い出し、それから、自分が助かったことを悟ったそうだ。[l][r]
翌日、いつまでも病院に戻らない義之を捜索が始まり、Y山で死んでいる彼が発見されたという。[l][cm]

「お父さんが死んでから、あの夢を見るようになったんだ」[l][r]
「あの夢……?」[l][r]
「水中に溺れていくと、音楽が聞こえてきて??」[l][r]
「ああ、思い出したよ、その後安心して眠るんだよね」[l][r]
「うん……不思議なの。最近は、毎日のように、その夢を見る」[l][r]
そう言ってから、ほのかは立ち上がり、「帰ろっか」と呟いた。[l][cm]
[backlay]
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ほのかがY山に来ていたのは、そこが彼女と父親の遊び場所であり、また彼の亡くなった場所である……というのが、どうやらその理由らしかった。[l][r]
彼女の話から、思い入れのある、特別な場所であることはよく理解できた。[l][r]
だが。[l][r]
それが、ほのかの秘密の全てであるかどうかは分からない。[l][r]
何より「見えないものが見える」という謎が、ほのかの父親の死とどう結びつくのだろう。[l][r]
両者がかけ離れたものに思え、それぞれがどんな関係性をもつのか、葉一には判然としなかった。[l][r]
それは、ほのかにしても同じなのかもしれない。[l][r]
彼女もまた、自身に起きている現象と父との死に、どんな脈絡があるのか理解していない……そんな可能性があった。[l][r]
だったら、一体どうすればいいのだろう……。[l][cm]
[backlay]
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はっとして、視線を転じたが、そこにほのかの姿はなかった。[l][r]
深く考え込んでいたせいで、歩みが遅くなっていた。[l][r]
気付かぬうちに、前方を歩いていた彼女から遠のいてしまったようだった。[l][r]

[playse storage="かきわけ.wav" volume=1 gvolume=1 loop=false]
足早にY山を抜け、茂上家を目指した。[l][r]
その道中、ほのかは見当たらなかった。[l][cm]

[backlay]
[image storage="茂上家玄関夜.jpg" page=back layer=base]
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すでに帰宅してしまっただと思い、葉一は玄関の扉を開けた。[l][r]
「あら、葉一くんじゃない」[l][r]
ほのかの母親は、ちょうど帰宅したところだったようで、片方の靴を脱ぎかけていた。[l][cm]


「あのう……」[l][r]
ほのかちゃん、いますか。[l][r]
という言葉が喉まで出かかったところで、葉一の口は固く閉ざされた。[l][r]
もっと他に、話すべきことがあるじゃないか……。[l][r]
彼女が今、どんな状況にあるのか、ほのかの母親に教えなければいけない。[l][r]
説明したところで、どこまで理解してもらえるか分からないが、
それでも、躊躇している場合ではなかった。[l][r]
葉一は臍を固め、胸の内にあるものを一つ一つ言葉に変えていった。[l][cm]

[backlay]
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ほのかの母親は、真剣に話を聴いてくれていた。[l][r]
「あの、これ全部、本当のことなんです」[l][r]
「ええ。もちろん信じるわ」[l][r]
「ぼく、どうしていいか分からなくて……」[l][r]
「大丈夫よ。心配しないで」[l][r]
話に割り込むように、玄関からがらっという音がして、「ただいま!」という元気な声が耳に届いた。[l][r]
[playbgm storage="先生.ogg" loop=true]
「あ、葉一くん、探してたんだよ! どこに行ってたの?」[l][r]
「え、あ、ぼく、ほのかちゃんが先に帰ったと思って」[l][r]
ほのかの豹変ぶりに驚いたが、その笑顔には一切の陰りがなく、以前のような明るさに溢れていた。[l][r]
「もう、どこほっつき歩いていたのよ。ご飯の前に、夏休みの宿題しなさいね」[l][r]
はーい、という投げやりに言い放ち、ほのかは2階へ上がっていった。[l][r]
階段を上る音が消えた頃、落ちつき払った声で、ほのかの母親は語った。[l][r]
「??あの子の父親のこと、ほのかから聞いているかな」[l][r]
葉一は、はいと答え、頷いた。[l][r]
「ほのかはね、お父さんが大好きだったの……。友達と遊ばす、いつもあの人の傍にいたわ。小学生になってからも、父の元から離れなかった」[l][r]

■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■

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[image storage="葉一昔部屋.jpg" page=back layer=base]
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*save|夏休みの間も、ほのかや菊岡
;-------------------------------------------
;ほのかは苦しんでいた。だが、誰かに助けを求めれば、きっと、自分のしていることをやめさせら
;れる。そうすれば、もう父に会うことができない。幻想を求め続けて結果、もはや幻想遊びから抜
;け出すことはできない。待ち受けるのは死あるのみ。そして、幻想に殺された人間は、深奥へ向か
;う。
;-------------------------------------------

8月23日。[l][r]


葉一は、ほのかに会いに行くため、それから昨日のことを謝るため、Y山へ向かった。[l][r]
頭上には、どんよりした曇り空が広がっている。[l][r]
雨が降ってもいいように、一応傘を片手に、道を急いだ。[l][r]

森を抜け、河原に出たが、ほのかはどこにもいない。[l][r]
葉一は、おそらく山の奥にある、あの場所にいるのだと思った。[l][r]
もう何も隠す必要はない。[l][r]
どんなほのかでも受け入れると決めたのだ。[l][r]
葉一は、河原を離れ、山の奥へ歩みを進めた。[l][r]
[backlay]
[image storage="深奥へ暗い.jpg" page=back layer=base]
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「うわあああああああ……!!」[l][r]

岩壁に挟まれた一本道に出たとき、葉一はその声を耳にした。[l][r]
どきりとして、視界の向こう側を見た。[l][r]
やはり、ほのかはこの先にいる。[l][r]
葉一に躊躇はなかった。[l][r]
たとえ、何が待ち受けようとも、もう、彼女を傷つけはしない。[l][r]
未だ踏み入れぬ暗がりの奥へ、葉一は飛び込んだ。[l][r]
[backlay]
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「お父さん……苦しいよ……」[l][r]

地面にしゃがみ込むほのかがいた。[l][r]
訴えかけるように、何度もそれを口にしていた。[l][r]

「助けて……助けて……! お父さん! 助けてっ!!!」[l][r]

突然、ほのかは絶叫した。[l][r]

「あああああぁ……お父さん!! お父さん!!」[l][r]

「何か」に冒されているようだった。[l][r]
それを振り払うように、ほのかは痛ましい悲鳴を上げた。[l][r]

「ほ、ほのかちゃん……!」[l][r]

葉一は、がくりとその場に倒れ込んだ。[l][r]
これが……寂しさ……?[l][r]
だがすぐさま駆け寄って、ほのかの手を取り、しっかりと握った。[l][r]

「ほのかちゃん! ぼくがいるよ!」[l][r]

葉一は一心不乱に、ほのかの名を呼んだ。[l][r]
大丈夫だよ、ぼくがいるから安心して、と、思いつく限りの言葉をかけた。[l][r]
そうして、話しかけているうちに、ほのかは自分を取り戻すように静まっていった。[l][r]
尋常でなかった泣き様も、次第に変哲のない女の子のそれに変わっていった。[l][r]

「ほのかちゃん……ごめんね」[l][r]

葉一はほのかに謝った。[l][r]
微かにすすり泣くほのかは、え、と小声を漏らし、葉一を見た。[l][r]

「赤い鳥、いるよ。いっぱいいる。嘘ついてたんだ……」[l][r]

驚いて目を見張る彼女の瞳から、再び、大きな雫がこぼれた。[l][r]
「どうして……? 葉一くん、嘘なんかついてない」[l][r]
「ううん、ぼくも見えるよ、本当だよ!」[l][r]
ほのかは首を横に振った。[l][r]
涙の粒が宙に飛び、細かに散った。[l][r]
「赤い鳥なんて、いない……あたし、分かってるの。自分がおかしくなってること分かってるの……!どんどん壊れていくのが……分かる……もう元に、戻れないって……!」[l][r]

声を震わせながら、絞り出すようにほのかは叫んだ。[l][r]

「でも、やめたくない、お父さんと一緒にいたい……!!」[l][r]

弾けた雫が、葉一の頬を伝い、すうっとその輪郭をなぞった。[l][r]
しかし、もはやそれが誰のものかなど、分かりはしなかった。[l][r]
取り乱すほのかをなんとか落ち着かせたかった。[l][r]
だが、そのあまりの激しさに気圧されていた。[l][r]
彼女の内に秘めたるものの大きさを、ひしと思い知らされていた。[l][r]
それが、自身の胸奥に携える苦しみ、悲しみと重なり、とうとう我慢ができなくなっていた。[l][r]

二人は、心の底にあるもの全てを吐き出すように、大声で泣いた。[l][r]
赤子のように、手を取り合いながら、泣きじゃくった。[l][r]
それは、森に谺し、山を抜け、雲で閉ざされた空の上に満ちる光へ伸びゆくように、どこまでも広がっていくようだった。[l][r]
[backlay]
[image storage="秘密場所光る.jpg" page=back layer=base]
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一条の光が、天から降り注ぐ。[l][r]
二人をあやすかのような、柔らかく穏やかな光だった。[l][r]
ふっと雨が止むように、葉一とほのかの声が消えた。[l][r]
頭上を見上げ、二人はその神秘的な光景に目を奪われた。[l][r]
「あのね」[l][r]
ぽつり、とほのかが呟く。[l][r]
「ここ……お父さんが死んでいた場所なの。それだけじゃなくて、今までたくさんの人がここで死んだんだって……」[l][r]
「そうなんだ……」[l][r]
「生きてた頃のお父さんが言ってた。この山は、大切な人を失った人々の集まる場所なんだ、って」[l][r]
「じゃあ、ほのかちゃんも……?」[l][r]
「うん」と小さく頷き、ほのかは胸の内を語った。[l][r]
「お父さんに会いたかったから、ここで、ずっと願ってたの……。そしたら、なんだかお父さんがいるような気がして……もっともっとって、そのよく分からない気持ちに近づくように、強く願ってた。だんだん、本当にお父さんが生きているような感じがして、あたし、信じたの。現実のことが全部じゃないんだって……」[l][r]

そうやって強く求める度に、義之が傍にいるという実感をほのかは得ていた。[l][r]
一時、ほのかの心は幸福で満ちた。[l][r]
だが、その幸福が過ぎ去ると、義之がまた遠くへいってしまう……という切迫感を覚え、いつしか極度の不安が付き纏うようになっていた。[l][r]

「でもね……葉一くんやお母さんには、知られたくなかったんだ」[l][r]
「どうして?」[l][r]
「知られたら、やめさせられるでしょ……? あたし、もう、お父さん無しではいられないようになってたの……。だから、無理矢理、笑顔をつくってた」[l][r]
「そうだったんだ……」[l][r]

ほのかの母親は、そんなほのかを信じていたし、葉一も、そうしようと心に決めたところだったが、実際のところ、彼女のそれは、偽りの笑顔だった。[l][r]

「でも、どうしても……やめられなかったの……。必死に隠すしかなかった……」[l][r]

その声は自分を責めるようであり、また葉一や彼女の母親に謝るようでもあった。[l][r]

「ほのかちゃん、お父さんが大好きだったんだね……」[l][r]

うん、と頷いて、ほのかは俯けていた顔を上げた。[l][r]
二人の視線が、真っすぐつながった。[l][r]

「もう……終わりにするね」[l][r]

静かに翳る 光芒画像
日差しの中で、ほのかは微笑んだ。[l][r]
その目尻に浮かぶ涙が、小さく輝いて見えた。[l][r]
余韻の残るような優しい声だった。[l][r]
そして、どこか決然とした一言でもあった。[l][r]

葉一の片手がそっと握られた。[l][r]
「あたし、葉一くんが、この山に来てくれるようになって、嬉しかった」[l][r]
「うん」[l][r]
「葉一くんがいてくれたから……辛いときも、明るい気持ちでいられた」[l][r]
「ぼくも同じだよ。ほのかちゃんと一緒にいると、辛いこと、忘れられるもん」[l][r]

二人は手をつないで、木漏れ日の溢れる森を歩いた。[l][r]
風がそよそよと吹き抜けた。[l][r]
森のあちこちで葉擦れの音が聞こえた。[l][r]
辺りにはそれだけが微かに響いていた。[l][r]
蝉の鳴く声はどこにもなかった。[l][r]

このY山には、様々な表情があるようだった。[l][r]
夏が終わり、秋が来て、冬が訪れる。[l][r]
色鮮やかな紅葉と山の雪景色を想像しながら、葉一はやがて来る季節に思いを馳せた。[l][r]


;Y山前の空
[backlay]
[image storage="黒い山.jpg" page=back layer=base]
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「??明日、あたしも行くからね!」[l][r]
突然、ほのかが言い放った。[l][r]
「え?」
意表を突かれた葉一は、気が抜けたような声を漏らす。[l][r]
「へへへ、すごいでしょ。あたし、葉一くんの誕生日パーティーのこと知ってるもん!」[l][r]
「あ、うんうん! ほのかちゃんも来てよ! 楽しみに待ってるから」[l][r]
「あー、早くケーキ食べたいよー!」[l][r]
葉一は、ケーキを目の前に舌なめずりをするほのかを想像し、くすっと笑みをこぼした。[l][r]
「なに、どうしたの?」[l][r]
「ううん、別に」[l][r]
「なになに、教えてよー!」[l][r]
「ほのかちゃんのケーキには、イチゴじゃなくて、ミニトマトが乗ってるような気がして」[l][r]
「ううん。あたしは、物語をつくる人になる!」[l][r]
「へえ、本を書く人? いいじゃん、ぴったりだよ」[l][r]
ほのかは、にぃと歯を見せて得意げに笑う。[l][r]
「葉一くんは?」[l][r]
「ぼくは、えっと、うーん」[l][r]
正直、考えたことがなかった。[l][r]
葉一には今という現実がとにかく苦しかった。[l][r]
一日をやり過ごすことだけで精一杯だったから、未来にまで目を向ける余裕を持つことができなかった。[l][r]
「いい夢が見つかるといいね」[l][r]
「うん。じゃあ、また明日ね」[l][r]

[backlay]
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Y山の前でほのかと別れ、独りになった葉一は、将来の自分の姿を思い描いた。[l][r]
5年後、10年後……自分は一体、どんな人間になっているだろう。[l][r]
しかし、その未来像はまるで形にならず、随分とぼやけみえた。[l][r]
きっと、今は分からないことなのだ。[l][r]
いつか、それがはっきり映ってみえる時がくるのだろう。[l][r]

葉一は帰路を歩きながら、俄に胸を弾ませた。[l][r]
いよいよ、明日は誕生日。[l][r]
色々なことがあったけれど、明日は楽しく過ごしたいな。[l][r]

??もう……終わりにするね。[l][r]

ほのかは、亡き父に囚われ、独り苦しんでいた。[l][r]
だが、もう独りではなかった。[l][r]
葉一は、ずっとほのかの傍にいようと思った。[l][r]
ほのかちゃんが辛いとき??たとえ、どんなところにいても??ぼくは、必ずそこへ行くよ。[l][cm]

;--------------------------------
;パーティ中「ほのかが死んだ」という描写
;--------------------------------
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*save|誕生日会

8月24日。[l][r]


菊岡邸に着くなり、菊岡は葉一の頭に賑やかな色合いをしたとんがり帽を被せた。[l][r]

「主役は、こうでなくっちゃ」[l][r]

満足した面持ちを浮かべると、菊岡は台所の方へ行ったり、2階へ上ったり、室内を忙しなく駆け回っていた。[l][r]

それが落ち着いたなと思った頃、
[playse storage="ピンポン.ogg" volume=1 gvolume=1 loop=false]インターホンの音が鳴った。[l][r]

[backlay]
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[wait time=1200 canskip=false]

「お邪魔しまーす」[l][r]

玄関から、喋り声とともに2-1の生徒たちが姿をみせ、葉一のいるリビングに入って、好き勝手にソファやカーペットに
座り込んだ。[l][r]
「早く始まらないかなぁ」[l][r]

総勢10数名に及ぶ、2-1のクラスの生徒たちは、各々くつろぎ、はしゃぎ、
時には葉一に話しかけ、午後10時を待ちわびていた。[l][r]

葉一は、普段会話することのないクラスメイトから声をかけられることがとても嬉しかった。[l][r]

「桐谷くんの桐谷って、かっこいいよなぁ」[l][r]
とか[l][r]
「今度、一緒にうちで遊ぼうよ」[l][r]
とか、誕生日会が始まる前に、話すことが尽きてしまうのではないかーー
リビングには、そんな言葉の数々が溢れていた。[l][r]

「ほのかちゃ……茂上さんは、まだ来てないの?」[l][r]
葉一が尋ねると、[l][r]
「うーん、そうみたい。家が遠いから遅れてくるのかも」[l][r]
と女子が教えてくれた。[l][r]

「はーい! 皆さん、お待ちかね! 葉一くんのお誕生日会の始まりだよ!」[l][r]

わあ、と歓声が上がり、たくさんの拍手が重なりあった。[l][r]




「葉一くん、お誕生日おめでとう。これ、気に入るか分からないけど」[l][r]

順番に手渡されるプレゼント。[l][r]

葉一はその包みを開いていった。[l][r]

色々な文房具。[l][r]
手書きの絵。[l][r]
キーホルダー。[l][r]
怪談ものの本(これが一番気に入った)。[l][r]
バースデーカード。[l][r]

葉一は言葉を失っていた。[l][r]
温かな感情がひたひたと胸に迫り、涙腺を緩ませる。[l][r]
「皆が真面目にやるから、葉一くん、困ってるよー!」[l][r]

「感動してるんだって、こういうときはちゃんとやんなきゃ」[l][r]
「静粛に! 葉一くんが泣いてしまわないように気をつけて渡して下さい!」[l][r]
菊岡の冗談が葉一の心と身体を解きほぐす。[l][r]

全員からプレゼントをもらい受け終わると、葉一の口元におもちゃのマイクが当てられた。[l][r]
「何か一言お願いします」[l][r]
「あ、うん。皆からこんなにも贈り物をもらって……とても嬉しいです」[l][r]

唐突な感動に打ちのめされ、頭がまだ状況をよく理解していないようだった。[l][r]

なんだかもう、感情にもみくちゃにされたようで、葉一の声はぐらぐらと震えていた。[l][r]
[fadeoutbgm time=2000]
「おい、そういえば、菊岡がまだプレゼント渡してねーぞぉ?」[l][r]

そう声がすると、女子たちが、たちまち非難し始めたので、葉一は心苦しかった。[l][r]

「おい、待ってよ、ちゃんとあるって! でも……みんなみたいな、物じゃないけど」[l][r]
[playbgm storage="conon.ogg" gvolume=5 volume=5 loop=true]
そうすると、どこからか、オルゴールのBGMが流れ始めた。[l][r]

途端に室内は静かになり、菊岡が注目の的になった。[l][r]

何が始まるんだ、という気持ちがその静けさに表れていた。[l][r]
「えっと、実は??」[l][r]
そんな言葉から、菊岡の話が始まった。[l][cm]


「僕はずる休みしていました。[l][r]
いつも、風邪とか嘘ついてたけど……本当はどこも悪くありませんでした」[l][r]

雰囲気のためか、野次を飛ばす者は誰もいなかった。[l][r]

「でも、それを葉一くんは、黙っていてくれました」[l][r]

気恥ずかしくなったのか、菊岡は頭をかく。[l][r]

それから、ポケットから取り出したメモ用紙をちらりと見た。[l][r]

「僕は、その時、葉一くんがとても優しいと思いました。
けれど、葉一くんの優しいところは、それだけじゃありませんでした」[l][r]

訊きながら、なんだろうと葉一は思った。[l][r]

「僕はある日、葉一くんと商店街で悪いことをする不良たちを見ました。小学5年生くらいの男の子からお金を盗ろうとしていました。僕らは逃げました。それから、大人に教えようと話しました。
でも、葉一くんは僕の意見に反対しました。なんでだろうと思いました。
帰ってから、お母さんに話をしたら、こう言いました。
きっと、葉一くんは、邦明に悪い被害が及ばないに考えてくれたんだよ。
どういう意味か訊いたら、葉一くんは邦明を守ろうとしてくれたんだ、とお母さんは答えました。
僕は、驚きました。驚いたし、偉いなと思いました」[l][r]
[fadeoutbgm time=2000]

ぎこちなく菊岡は話しを終え、
[playse storage="拍手.ogg"]

皆は拍手をした。[l][r]

オルゴールのBGMが止むと、ふっと気を緩めたように室内が賑やかになった。[l][cm]

[playbgm storage="葉一日和.ogg" gvolume=5 volume=5 loop=true]
「それで、菊岡のプレゼントってなんなの?」[l][r]

「え、この話に決まってるじゃん」[l][r]

真顔でそう答えると、「そんなのありかよー!」と男女関係なしに皆は立ち上がって、政治家みたいにざわめき始めた。[l][r]

「さーて、それでは、皆様お待ちかねの、お食事タイムでーす!」[l][r]
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ごまかすようにそう声を上げた菊岡は、皆をダイニングに誘導し、各々の席へ座るよう促した。[l][r]
[backlay]
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長いテーブルには、見た事もないごちそうが山のように用意されていた。[l][r]

色とりどりの料理やデザート、その中央には、8本のロウソクとイチゴをふんだんに乗っけた純白のケーキ。[l][r]

「あ……」[l][r]

葉一は、思わず声を漏らす。[l][r]


ーー葉一くん、お誕生日おめでとう![l][r]


そう文字の綴られた、チョコレートの飾りが目に止まった。[l][r]

感情の波が静かに押し寄せる。[l][r]


「よーし、食うぞー!」[l][r]

「おいこら、まだ、だめ! その前にさ」[l][r]
「そうだった」という声を皮切りに、皆が目配せを始める。[l][r]
[fadeoutbgm time=2000]
菊岡がパチンと指を鳴らした。[l][r]
[backlay]
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すると、リビングの電気が消えて、ほとんど真っ暗になった。[l][r]

びっくりとする葉一の視界の中央で、小さな灯火が一つ、二つと浮かび上がる。[l][cm]

;--------------------------------
;ロウソクとケーキ×8
;--------------------------------
[r][r][r][r]
@font edge=true edgecolor=0x223344
『これ全部消したら、葉一くん、8歳だね』[l][cm]
@font edge=false

それらが、8つ揃ったとき??葉一はぴたりと動きを止めた。[l][cm]

「ん、どうしたの?」[l][r]

「遠慮なく吹き消してくれよな」といい、菊岡はにやりと笑ったが、
葉一は口を閉ざしたままだった。[l][r]

僅かな静寂の後、ガタッという物音が響いた。[l][r]

「あ、大丈夫?」[l][r]

一旦、菊岡が部屋の明かりをつけた。[l][cm]
[backlay]
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「あれ……?」[l][r]

一同の視線の先に、葉一の姿がない。[l][r]
そこには、横たわる椅子だけが残されていた。[l][r]

「急にどこにいったんだ? 葉一くん」[l][r]

皆は不思議そうに、主役の消えた席と消えぬままの炎を眺め、
どうしたのだろうかと思案した。[l][r]

だが、多くの生徒たちは、その答えを推し量ることができなかった。[l][r]

「うーん。もしかして」[l][r]

「もしかして?」[l][r]

誰しもが沈んだように黙する中、ようやく女子の一人が口を開けた。[l][r]

「??茂上さんが、いないからかな……」[l][cm]
[backlay]
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;-----------------------------------
;死が確かなものとなる
;
;晴れ渡った虚空の下の死別。
;-----------------------------------

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皆が、自分を祝ってくれることは純粋に嬉しかった。[l][r]

しかし、その場所に最もいてほしい人がいなかった。[l][r]



??明日、あたしも行くからね![l][r]


昨日の見た彼女の笑顔は、偽りのない「本心」そのものだった。[l][r]

ようやく、ほのかの立つ場所に、辿り着くことができたようだった。[l][r]

一緒に並んで、これからの未来を進んでいける??そんな気がしていた。[l][cm]


[r][r][r][r]
「ほのかちゃん……」[l][cm]
[backlay]
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8月24日。[l][r]
今日は、新たな物語の一ページとなるはずの日だった。[l][r]
8歳を祝う誕生日会には、どうしてもほのかがいなければいけない。[l][r]
そんな思いが葉一の胸に秘められていた。[l][cm]



だから、ロウソクの火を消すことが躊躇われた。[l][r]

できなかった。[l][r]



何も言わずのまま残して来た皆に、後でちゃんと説明
しなければいけない……。[l][r]


しかし、なぜ咄嗟に飛び出してしまったのか、自分でも不思議に思えた。[l][r]

「ほのかがいないのなら、連れてこればいい」[l][r]

今思えば、単純な理屈だった。[l][r]

ほのかと一緒に楽しい時間を過ごしたかった。[l][cm]




[r][r][r][r]
「ねえ、ほのかちゃん……」[l][cm]

いつまでも一緒にいたかった。[l][cm]

[r][r][r][r]
「ほのかちゃん、違うよね……?」[l][cm]

もっと話したいことがあった。[l][r]
山ほどあった。[l][cm]


[r][r][r][r]
「違うよね……」[l][cm]



葉一は、全力で否定し続けた。[l][cm]


[r][r][r][r]
「だって、来るっていってたじゃん……」[l][cm]



違う、違う、違う……。[l][cm]

[r][r][r][r]

「早くケーキ食べたいって……言ってたじゃん……!」[l][cm]


[r][r][r][r]
「きっと、ミニトマトの食べ過ぎで、お腹壊しちゃったんだ[l][cm]

[r][r][r][r]
……ね、そうでしょ?[l][cm]

[r][r][r][r]
だから、部屋とトイレを行ったり来たりしててさ……[l][cm]
[r][r][r][r]
それなのに、[l][cm]
[r][r][r][r]
ケーキ食べたいなんて、考えてるんだ、きっと[l][cm]
[r][r][r][r]
……そうだ、[l][cm]
[r][r][r][r]
そうだよね……?」[l][cm]

[backlay]
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茂上家に着いてすぐ、玄関の扉を開き、ほのかの名を呼んだ。[l][r]

リビングに行き、2階の部屋に行き、そこにいるはずの、ほのかを一生懸命探した。[l][r]
[backlay]
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しかし、室内はもぬけの殻だった。[l][cm]

[r][r][r][r]
どうして、いないの……?[l][cm]

[fadeoutbgm time=3500]

胸の奥部の一番大切な場所にある、繊細ものが泣き崩れて、そのまま、消えていった。[l][r]

誰もいないという、孤独感。[l][r]
何もないという、虚無感。[l][r]
もう明日は来ないという、絶望感。
そんな意識、そんな感覚。[l][cm]
[backlay]
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葉一は、溺れたように上手く呼吸ができなくなった。[l][r]
だが、もがくように、空気を求めるように屋外へ出て、

すがるような眼差しをY山へ向けながら、一心に路上を駆けた。[l][cm]


;siro

白と黒。[l][r]
;kuro

強烈な閃光が脳裏で幾度も点滅する。[l][r]
;siro

暗室が白い光で満ちる。[l][r]
;kuro

瞬時に暗室の黒に戻る。[l][r]

;ばちばちばち

スイッチが壊れてしまう……。[l][r]
異常な勢いで、onとoffが繰り返される。[l][cm]
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は、
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る。[r]

;------------------------
;■2行目(*´ω`*)
;------------------------


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;■3行目(*´ω`*)
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;■4行目(*´ω`*)
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;■7行目(*´ω`*)
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;■8行目(*´ω`*)
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い。

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;■9行目(*´ω`*)
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;■10行目(*´ω`*)
;------------------------

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[font color=default]

い。

[r]

;------------------------
;■11行目(*´ω`*)
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る。

[r]

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;■12行目(*´ω`*)
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い。

[r][cm]

;------------------------
;■13行目(*´ω`*)
;------------------------

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[r][r][r][r]
いない。
[l][cm]

;------------------------
;■らすと(*´ω`*)
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[r][r][r][r]
もう、いない。
[l][cm]


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河原に人影はなかった。[l][r]

葉一は、大声でほのかを呼んで、辺りをくまなく探した。[l][r]
川沿いを駆けて、茂みを掻き分けて、ほのかへ近づこうとした。[l][r]
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陸に漂着した流木のように、ほのかはいた。[l][r]
濡れた髪が乱れ、白い頬にまとわりついていた。[l][r]


「ほのか、ちゃん……?」[l][r]
確認するように訊ね、伏せる身体に近づいた。[l][r]

回り込んで、片腕の中の横顔を見た。[l][r]


安らかな表情だった。[l][r]

口元は薄らと微笑んでいた。[l][r]

まるで、幸せな夢でも見ているかのようだった。[l][r]

声をかけることもせず、身体を揺することもせず、ただただ、
その顔をいつまでも見つめた。[l][r]


頭の中のスイッチは、止まっていた。[l][r]


壊れてしまっていた。[l][r]


ほのかも、ずっとこのままなのだと、葉一は静かに理解した。[l][r]



ひどく縮み込んだ気がした。[l][r]

結び目のほどけた風船のように。[l][r]


小さく小さく……。[l][r]

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あれから、一週間が過ぎた。[l][r]

確かに通り過ぎたはずの時間なのに、それは夢のようぼんやりとしていた。[l][r]

横たわるほのかを見つけて、それから……。[l][r]



永遠に時が止まったように、動かぬほのかと葉一。[l][r]

どれくらいそうして、冷たく硬直したほのかを眺めていたのか……よく思い出せない。[l][r]

しかし、日が暮れてから、葉一はY山を降り、ほのかの家へ向かった。[l][r]


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玄関の扉を開けると、待っていたといように、ほのかの母、静香が奥から出てきた。[l][r]

仕事があったが、胸騒ぎがして、早めに切り上げてきたと言っていた。[l][r]

虫の知らせ、という言葉を使っていたような気がした。[l][r]



葉一は静香の顔から視線を下げ、Y山で見たものを短く説明した。[l][r]

その時、静香の浮かべた狼狽の色がはっきり感じられた。[l][r]

だが、葉一の記憶に残るものは、廊下にあった水筒だった。[l][r]

そのステンレスの側面にあった、色褪せたシールの、歪な輪郭。[l][r]



;---------

;トラディションでその輪郭を強調

;---------



現実を受け止めることができなかったのだろう。[l][r]

静香の声が張りつめる度、心は遠ざかろうとしていた。[l][r]

だが、静香はいつもの柔らかな口調を保とうとしていた。[l][r]

まるで理性を保とうとするように。[l][r]

お互いに必死だった。[l][r]

こんな話、あるはずがない。[l][r]

そうやって胸の奥で、ほのかが何事もなく元気でいることを願っていた。[l][r]

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居間で、静香が電話をかける声を聞き、近づく救急車のサイレンの音を聞いた。[l][r]

状況を説明する静香と救急隊員たちを案内するため、Y山へ入った。[l][r]

大人たちに囲まれたほのかは、すぐにタンカーで運ばれ、麓の救急車に乗せられた。[l][r]

静香は眠るように倒れる娘を見て、悲痛な声を上げていた。[l][r]

何度もほのかを名を呼び、懸命に助けようとしていた。[l][r]


けたたましいサイレンとともに大人たちの声は消えた。[l][r]


病院に運ばれたほのかが目覚めることはなかった。[l][r]

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間もなく葬儀が執り行われたようだった。[l][r]

ほのかは多くの人々に見送られながら、あの世へ旅立った。[l][r]

生前の元気いっぱいに笑う遺影と遺骨が、茂上家の仏壇へ収められた。[l][r]

喪服姿の静香は、弔問の客の対応に暮れていた。[l][r]

そのいつにもない粛々とした雰囲気を感じながら、葉一は居間で深枝先生といくつか話をした。[l][r]

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先生は、湯のみの茶をすすりながら、葉一に和菓子を勧めた。[l][r]

何がきっかけだったのかは定かでないが、葉一は自ら疑問を投げかけた。[l][r]

先生が調べていた、あの「幻想大全」についてだった。[l][r]



深枝先生は、少し驚いていたが、躊躇わずそれに答えてくれた。[l][r]

「彼女の家庭のことを知りたくて、お父さんの義之さんのことを調べていたの。[l][r]
義之さんは、この辺りの歴史について研究されていたみたいで、調べるうちに茂上家の方が、代々、その歴史や伝承を保守し継承してきていることが分かったの」

[l][r]

ほのかの様子がおかしいと告げた8月の登校日以後、深枝先生は、静香に心当たりを尋ねてたそうだ。[l][r]

その時、ほのかが父の死から大きなショックを受けていたことを知った。[l][r]

それ以来、おかしなことを口にしたり、奇妙な絵を描くようになったと訊き、深枝先生はひとまず納得をしたようだった。[l][r]


「??私、先生になる勉強をする前は、ずっと史学を専攻していたの」[l][r]


先生は、そう切り出し、あのコピー用紙のメモについてを話してくれた。[l][r]


「義之さん、彼がどんな研究をしていたのか、少し調べていたの。少なからず、その影響がほのかちゃんに及んでいるかもしれないと思って」[l][r]


そうしている内に、茂上家の人々により編纂された書物があることを知り、その名前と所有する図書館の存在も知ることになった。[l][r]


葉一と同様に、深枝先生は、幻想大全を紐解き、その内容に目を通した。[l][r]

だが、そこから得られるものはなかったという。[l][r]


そこで、葉一は、ほのかが見ていた「赤い鳥」のことを話した。[l][r]

深枝先生は、きっと辛かったんだね、と答えた。[l][r]

しかし、その顔はどこか腑に落ちないような表情を浮かべていた。[l][r]


「葉一君も読んだのよね?」[l][r]

「はい。ちゃんと全部読んだわけじゃないけど……」[l][r]

「ヒシとカシのお話は分かる?」[l][r]


葉一はうんと頷いた。[l][r]


「先生ね、あの伝承を読んで、ちょっと考えたのよ」[l][r]


「何を?」[l][r]


「孤独に打ちひしがれたカシは、最後、自ら命を絶とうとする。
その時、ヒシが現れた。ヒシは恋した女のもとへ行くといい、残されたカシは二人のいる深奥へ旅に出る。ってあったよね」

[l][r]
「うん、覚えてます」[l][r]


「カシは最後、ヒシに会えて、嬉しかったのかな。ってね、考えたの。独りになってしまったから、ヒシに会えたその時は嬉しかったんだと思う。けど、ヒシは好きだった女のいる元へ行ってしまう。そこは深奥と呼ばれる場所で……きっと果てしなく遠い場所にある」

[l][r]
先生はしばらく黙考していたが、再び話を続けた。[l][r]


「先生、女やヒシのいる場所に、カシが辿り着くことはない気がするのよね……」[l][r]

「どうしてですか」[l][r]

「カシは死ぬ間際にヒシに会えた。そして、命を絶たずに済んだ訳じゃない? 独り苦しんでいたカシにとって、それはきっと幸せだったはず。短いながらも途方もない幸せだった。先生、そう考えているの。だから、その後もこの世に生き続けるカシには、もう何も残っていないような気がするのよね……」

[l][r]
;-----------------

;あずさ編とつなげる

;-----------------


「でも」[l][r]

先生は、お茶をすすり、遠くを眺めるようにして、[l][r]

「それでも、カシは歩き続けるのよね……ヒシのいる深奥を目指して」[l][r]

そう言ってから一呼吸おき、他の話題へ移したのだった。[l][r]


葉一は、ほのかの死を受け止めていたわけでない。[l][r]

彼女が溺死して、この世からいなくなってしまったことは理解している。[l][r]

しかし、今でもほのかはいる。[l][r]

死んだからといって、彼女を忘れるわけではないし、普段のほのかへの意識が失われるわけでもない。[l][r]


だが、日に日に、ほのかのいない日常がいかに索漠としたものであるか、痛切に感じるのであった。[l][r]



ほのかがいない教室。茂上家。Y山。[l][r]


おかしな話だった。[l][r]

そこに彼女がいなければ成り立つことのない場所であるのに、
しかし、依然として、それらは存在していた。[l][r]



葉一には、たくさんの思い出がある。[l][r]
この河原でほのかと過ごした日々。[l][r]

全てが大切な財産だった。[l][r]

これからも、そんな尊いの日々が待っているのだと葉一は信じていた。[l][r]



「ぼくも、ゆっくりと眠りたいよ……」[l][r]



いつからか、彼女が夢で見ていたという音楽を求めていた。[l][r]

何度も何度もY山の川へ潜った。[l][r]

そうすることで、彼女の苦しみを知ろうとしていたのかもしれない。[l][r]


半ば狂っていた。[l][r]

なんのために川の中へ飛び込んでいるのか。[l][r]

それさえ、分からなくなっていた。[l][r]



ある日、同級生のマニアをY山へ招いた。[l][r]


ほのかがここへ来ることを許した唯一の人間だった。[l][r]

葉一は、マニアを川に潜るよう言った。[l][r]


「水中から音楽が聴こえる」[l][r]

そう言えば、きっと興味をもってついて来ると思った。[l][r]

確かに、分厚い水の層を通して、葉一は、その日、短いメロディーを耳にした。[l][r]

それがなぜ聞こえたのかは分からない。[l][r]

マニアが河原で何か歌っていたのかもしれない。[l][r]

しかし、そのひどく歪んだような旋律が頭にこびりついて離れなかった。[l][r]

その一音一音を探すように、葉一は、その後、学校のピアノの鍵盤を弾いた。[l][r]

分からなくなると、再び河原に飛び込んだ。[l][r]

葉一には、何もなかった。[l][r]

何かに夢中になりたかった。[l][r]

そうすることで、ほのかのいない現実から目をそらせる、そう思っていた。[l][cm]

「桐谷くん……もう、やめなよ……」[l][r]


何度も、水しぶきをあげ、水中へ身を沈める葉一を、マニアは河原で呆然と眺めていた。[l][r]
夕刻になってから、葉一は岸へ上がり、乱れた呼吸を整えた。[l][r]
先に帰ってしまったらしく、河原にマニアはいなかった。[l][r]

独りだった。[l][r]
葉一は、本当に独りなのだと思った。[l][r]
でも、振り向けば、すぐ後ろで、おかしそうに笑っている気がした。[l][r]
それ程までに、ほのかはここにいて当たり前という存在だった。[l][r]
葉一は、誰もいない河原を歩いた。[l][r]

ほのかに会いたい。[l][r]
たったそれだけのことが、今は途轍もなく特別なものに思えた。[l][r]
そう思えば思う程、葉一はいかに幸せな時を過ごしてきたかを思い知るのだった。[l][r]


[backlay]
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Y山を離れ、茂上家の前に立った。[l][r]

無言で扉を開けて、玄関に入った。[l][r]


「ああ、葉一くん、いらっしゃい」[l][r]

葬儀が終わってからも、静香は多忙を極めていた。[l][r]
そのために、こうして二人きりになれるまでには多少の時間がかかっていた。[l][r]

仏間で拝んでから、久しぶりの居間に腰を下ろした。[l][r]

[backlay]
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「葉一くんに渡さないといけないものがあるの」[l][r]

「なんですか」[l][r]

「これ……ほら、あの日、葉一くんの誕生日だったから」[l][r]



手紙だった。[l][r]

「あの子ね、プレゼントを何しようか、何ヶ月も前から考えていたのよ」[l][r]

「そうだったんですか」[l][r]

「あれこれ言いながら私の周りをうろちょろして、これがいいかな、あれがいいかなって、延々悩んでいたのよ。私、家事をしながら話を聞いてやるのが大変だったわ」[l][r]


小さく笑って、静香は葉一に一枚の便箋を手渡した。[l][r]


「――結局、手紙にすること決めたみたいね」[l][r]

静かに翳る 動物人間

テメェ読むやつのこと考えてんのか?? 信濃川よりなげぇわ!!

静かに翳る MADOROMI

すいません。。幼少期の修正前のシナリオです。

静かに翳る 幻の麻野

テキスト内に「スイッチ」とありますが、これはなんなのでしょうか。

静かに翳る MADOROMI

没にした演出のことです。花びらをちぎって「すき」「きらい」って占うあれのように「ほのかはここにいる」「ほのかはここにいない」という表示が白い画面、黒い画面でそれぞれ繰り返され、だんだん、その繰り返しが高速化し「ポリゴンフラッシュ」のように激しく点滅し、スイッチが壊れる。壊れたことが、ほのかの死を暗示させる……という演出を考えていました。

静かに翳る 動物人間

なんじゃそれ。

静かに翳る MADOROMI

スイッチという要素が、このシナリオに合っていなかったから没にした。しかし、演出としては気に入っていたんだよね。。

静かに翳る エッグ

めがおかしくなっちゃうよ。

静かに翳る MADOROMI

そこまで刺激はないけど、インパクトはかなりあったかな。でも、インパクトがありゃなんでもありってわけじゃなくて……。とにかく、当時は「話の流れや雰囲気に合った演出」の難しさに苦闘していたよ。汗

静かに翳る 動物人間

よかったな(笑)

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