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2014年


3月05日



静かに翳る 初期タイトル画面

静かに翳る エッグ

最初期のタイトル画面だよ~ん☆まだテキストしか表示されていない頃のデータのキャプチャ画像だね。

静かに翳る MADOROMI

今思えば、タイトル画面作りも大変だったw完成形に至るまでの道のりがとても長かった。「ミニトマトのマークがあって、それに触れると物語を紹介する帯が表示されて、そしてクリアごとに背景の人物が動いて、増えて、ともに時間帯が変わっていく」という状態にいきなりもっていくことはできなかったので、地道に改良していったw

静かに翳る 動物人間

皆そうやって必死にタイトル画面作ってんだ、分かってんのか!?

静かに翳る エッグ

しー。

静かに翳る 動物人間

うっさいわ。

静かに翳る エッグ

∩( ゚Д゚∩ きこえなーい

静かに翳る 動物人間

このクソタマゴ……調子に乗りやがって……!!

静かに翳る 幻の麻野

続きをお願いします。

静かに翳る MADOROMI

あ、はい。地味に厄介だったのは、オンマウス表示が残ってしまう不具合を直す作業。思い出すと辛くなるので書くのはやめておくwでも、頑張って直したんだ。自分で……自分を褒めるしかないじゃない!

静かに翳る 幻の麻野

可哀想ですね。

静かに翳る MADOROMI

※↓以下はこの頃書いていた深奥編幼少期の没シナリオ。長いんで興味がある人は読んでみてね。

「それから、覚えてないんだ」[l][cm]

ほのかは空を眺めていた瞳を、葉一の顔に向けた。[l][r]
「目覚めたら、河原にいて、もう辺りは暗かったの。でも、心細くなかった」[l][r]
ほのかは、川で溺れたことを思い出し、それから、自分が助かったことを悟ったそうだ。[l][r]
翌日、いつまでも病院に戻らない義之を捜索が始まり、Y山で死んでいる彼が発見されたという。[l][cm]

「お父さんが死んでから、あの夢を見るようになったんだ」[l][r]
「あの夢……?」[l][r]
「水中に溺れていくと、音楽が聞こえてきて――」[l][r]
「ああ、思い出したよ、その後安心して眠るんだよね」[l][r]
「うん……不思議なの。最近は、毎日のように、その夢を見る」[l][r]

ふうと疲れたように息を吐き、ほのかは額の汗を拭った。
「だから、この山に来ていたんだね」

「うん。ここは、お父さんとの思い出がたくさん詰まってる場所なんだ」

すっと立ち上がり、「葉一くん、ついて来て」
走り出すほのかはそう声を上げ、木陰から炎天下の日差しのもとへ飛び出した。
「あ、待って!」

ほのかの向かう先は、どうやら、以前訪れたことのある、道具置き場のようだった。

「ここで、いつもお父さんと悩んでた」

「どうして?」

「ここをね、庭にするか、畑にするか、考えてたんだ」

手招きされた葉一は、改めて辺りを見回しながら、ほのかの後に続いた。

「結局、どっちつかずのまま、お父さん死んじゃって――でも」

屈み込むほのかの見つめる先には、一畳程の小さな畑があった。
耕された土の上には、ぽつぽつと何かの苗木が芽生えていた。
「すごいね。これ、ほのかちゃんがつくったの?」
「そうだよ」
ほのかは、父亡き後も、ひとりで畑仕事をし、種を植え、枯れてしまわぬよう欠かさず水やりをしていたことを葉一に告げた。
「初めはね、何も出てこなくて寂しかったけど、
でも、ちっこい芽が出た時は、すごい嬉しかった」

そう口にしている間、ほのかの顔にいつも明るさがあったが、話し終えてすぐ、それは日が沈むように陰った。
葉一は、その陰る表情を見て、俄に深い悲しみを覚えた。

ほのかはその喜びを父親に伝えたかったに違いない。
誰よりも先に、幼いながらもたった独りで頑張っていたことを伝え、褒めらたかった――。
言葉はなくとも、ほのかの胸に抱いた気持ちを葉一は汲み取ることができた。

「お父さん、きっと喜んでるよ」

「うん……」

葉一には、そう言ってほのかを励ますことだけで、精一杯だった。
それだけしか彼女にしてあげられない自分が嫌で、葉一の心は塞ぎ込むようだった。

河原に戻ったあとは、素足で浅瀬に入り、小魚や水生昆虫を捕まえて遊んだ。
生き物図鑑に乗っていた○○を探してみようと言い、あとは黙々と水面を見つめ、ときどき岩をどかした。
――いなかったね。
――うん。
そうして、再び他の生き物を二人で探し始めるのだった。
日暮れまでそれを繰り返していた。
あまり会話はなかった。

少し風が出てきた――そう葉一が思った頃には、辺りは西日に染まり、川面がちらちらと煌めいた。
葉一の視線に気付いたほのかは、影を長く伸ばしながら、ゆっくりと岸に上がった。

「――あのね」
河原で暮れなずむ空を眺めていると、徐に口を開けた。
「ある日、あの場所に行って、お父さんが傍にいるって想像してみたんだ」

葉一は、ほのかが来る日も来る日も、あの場所で父が傍にいるという想像をしていたことを知った。

「そしたら、うっすらとだけど、お父さんの姿が見えたような気がしたの。びっくりして……心臓がどくどく音を立ててた」

しかし、それでもほのかは森の奥へ訪れていた。

「だけどね……」

「うん」

「そのお父さんは、違う人だった」

「違う人……?」

声に表れはしなかったが、葉一は内心で狼狽えていた。
違う人、という言葉から、得も言われぬ不気味さを感じ取ったのだった。

「お父さんの姿をしているけど、わけの分からないことを喋ったりするようになって……」

脳裏に、ふつふつと蘇る。
あの日垣間みたもの……。
底知れぬ恐ろしさを湛えた、あの異様な世界……。

「だから、この人はお父さんじゃない……もっと、違うものなんだって分かった」

「う、うん……」

「それから、あたし怖くなって、あたし、あそこへ行かないようにしていたんだけど……」

そこで言葉は打ち切られた。
葉一は、そっと覗き込むようにほのかの方を見た。
その唇は固く結ばれていた。

「ほのかちゃん……大丈夫?」

痛みを抑え込むように、ほのかはぎゅっと両手を握った。

「でも……身体が言うことをきかなくて……だんだん胸が苦しくなってきて、気付いたらいつの間にか、あそにこで、必死にお父さんを呼んでいるの……」

ほのかは一瞬怯えたように、びくっと身を震わせた。それから気持ちを落ち着かせるように大きく息を吸い、瞳を閉じてゆっくりと吐き出した。

「ほのかちゃん……」

「葉一くん、ごめんね……」

「なんで、謝るの! 違うよ、謝るのぼくぼ方だよ! ずっとほのかちゃん苦しんでたのに……ぼく、なんにもしてあげられなかった……」

ひどく落胆する葉一にほのかは、「心配しないで」と答えた。

「あたし……大丈夫だから」

「え……でも」

「確かに……苦しくてつらくて、泣いたりもするけど……でも、きっと良くなるって信じてるの」

意外な言葉を耳にし、はっとして葉一はほのかの顔を見た。
そこには、弱々しくも、いつもの笑顔が浮かんでいた。

「葉一くんと一緒にいるとね。あたし、いつもの自分に戻れるの。不思議だけど、でも、本当だよ?」

「え、ぼく?」

「うん。きっと、葉一くんには、悪いものを吹き飛ばす力があるんだよ」

葉一は、心底驚いていた。
口を半開きにし、嘘みたいに笑うほのかを呆然と見つめていた。

「だから、これからもいっぱい遊ぼうね!」

その一言が、何も口にせず、ぼうと立ち尽くしていた葉一の意識を吹っ飛ばした。
苦境にいながらも、ほのかは前向きで笑顔を絶やさないでいる。
ひとり苦しみながらも、いつも葉一に気遣ってくれている……。

そんなほのかを、元気づけたい。
葉一の胸には、ただ一つその思いが強くあった。

「ほのかちゃん、ぼく、お父さんの代わりにはなれないけれど……でも、ずっとこの山に来るよ!
いっぱい思い出が残るように頑張る!
ほのかちゃんのお父さんに負けないくらい!」

気がついたときには、自分でも信じられないくらい大きな声を出していた。
言い終わるとたちまち照れくささを覚え、葉一は
こくりと頷くほのかの、潤んだ瞳に目を合わせられなかった。
川縁を柔らかい風が吹き抜けた。
ほのかの黒髪が小さく揺れた。
日が沈む前に、二人は手を上げ、お互いの帰路に就いた。


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広史たちのパシリ 向日葵畑発見

------------------------------------
帰宅してすぐ、葉一はタムロ部屋の前で呼び止められた。それから何が始まるのか、葉一には分かっていた。奥にシンジもいるようだった。
暴力だけじゃ済まないかもしれない。
そんな恐怖に脅かされながら、葉一は淀んだ空気を内包する一室へ進んだ。
後方で扉が閉ざされ、光が完全に失われたとき、五人の男たちは、徐に腰を上げた。
気が狂いそうになるけれど、ぼくには、ほのかちゃんがいる。
それが心の拠り所だった。
だが、今はそれだけで十分だった。

――きっと、葉一くんには、悪いものを吹き飛ばす力があるんだよ。

ほのかのくれた言葉は、何より葉一の心を勇気づけていた。
どんなに辛いことがあっても、ほのかがいてくれるなら、きっと耐え忍ぶことができる。
葉一は、心からそう信じていた。


「こっちへ来い」

それは、いつものように始まった……。


夜。
広史たちの食糧を調達するために、ずたずたになった心身に鞭打って、のろのろと町を歩いていた。
しかし、虚ろになった頭のせいでか、途中で道に迷ってしまった。
自分がどこにいるのか分からなくなった。
分からないままに夜道を漂い、流れ着いたのは、ある景色の広がる場所だった。
暗くてほとんどよく見えなかったが、前方は街灯の明かりで目視することができた。
引き寄せられるように、そこへ踏み入り、端まで突き進んだ。
葉一は、頭上の月光に照らされるそれらを日中見てみたいと思った。
自分ひとりだけではない。
ほのかと一緒に見てみたい。
そんなことを考えながら、葉一は彷徨いながらも着実に自宅へ近づいていくのであった。


―――――――――――――――――――――
葉一の告白により、娘の実情を知ったほのかの母親は、あれから二人で話し合い、総合病院で診察を受けることを決めたようだった。
ほのかの母親は、何かしらの疾患により、見えないはずのものが見えたり聞こえたりするのだと判断らしかった。
しばらくの間、ほのかの病院通いが続くことを知り、葉一は少し寂しく感じたが、何より、ほのかが良くなってほしいと切に願っていた。

精密検査の結果が出るという日の正午、葉一は天上に広がるどんよりとした雲を気にしながら、Y山へ向かった。
自分のことのように検査の結果が気になっていた。
大丈夫、ほのかはなんともない、と強く念じながら河原を目指した。

ほのかは、ぽつんと立っていた。
どこかを見ているようだったが、何を見ているのかは分からなかった。
「ほのかちゃん!」
声をかけ葉一は傍に近づいた。
振り向いたほのかは、いつも以上に青ざめ、震えていた。目の下には、くっきりとくまが浮かんでいた。
まるで別人のようだった。

何も言わなかった。
まるで言葉を忘れてしまったようだった。
たじろぎながらも、葉一は、恐る恐る声をかけた。
「検査の結果……どうだった?」

ゆっくりと頭が揺れた。
それはゆらゆらと左右に動いていた。
その生気を奪われたような力ない様に、葉一は思わず言葉を失った。

「……異常なしだって」
「え……?」
「……異常はないんだって……」

異常はない。
つまり、悪いところはない。
ほのかは病気ではないということだ。
幼いながらも葉一は覚悟をしていた。
ほのかが何か重篤な病に冒されているということを。

「……よかった」

ひとまず安堵して、そう声を漏らしたとき――ほのかは、しくしくと泣き始めた。

「さっき……あたし、またあそこで……」

突然、両手を瞳にあて、激しくなきじゃくった。
葉一の心は裏切られたようだった。
一時の安堵は、一切の形を残さず消え去っていた。
唯一残されたのは、猥雑にざわめくような焦燥感だった。

「さっき……何があったの……?」

ただならぬことが起きたことは容易に想像できた。
ただ、いつまでもほのかは答えなかった。
その代わりに痛ましい程の涙をこぼし、悲嘆の声を上げていた。

「黒い……人間……」

「え……?」

尋ねると、それが脳裏に浮かび上がるのか、ほのかは激しく嫌悪するように「いや、いや……!」と叫び、何度も首を振っていた。

「黒い人間……真っ黒な人間……こっちこっちて呼ぶの……ひとりじゃない……何人もいるの……もうお父さんの姿はどこにもなかった……」

葉一にはもはや理解が及ばなかった。
分からないがために、ぞっとして背中が冷たくなっていた。
何も言えないまま、汗で張り付いたシャツの不快な感触を味わうばかりだった。

「あたし……もう、元に戻れないかもしれない」

「そんなことないよ……」

きっと睨むような眼差しが突き刺さった。
それは葉一の心臓を鋭く貫くようだった。

「こんなに辛いのに……お医者さん、分からないっていたんだよ? もう、治らないってことじゃん……!」

「…………」

葉一の胸は今にも張り裂けそうだった。
なぜ、ほのかはこんなにも苦しまなければいけないのだ。
やり場のない怒りと悲しみを覚える度に、途方もないやるせなさを募った。

「いやだ……。いやだよ……」

ほのかの声は、まるで絶望の淵から発せられるようだった。

「このままじゃ……あたし……」

だだっ広い灰色の雲は日差しを遮り、森を翳らせていた。
今にも雨が降り出しそうだった。
しかし、それでも構わないと葉一は思った。

「えっ……」

小さくこぼれた驚きの声に「ついて来て」と返事した。

「どこへ行くの……?」

葉一は答えぬままほのかの手をひき、駆け出した。
河原を離れ、森を抜け、Y山から遠のいた。
視界には、小雨の細い線が点滅するように浮かび始めていた。
それは葉一たちが住宅街を走る度、強まるようだった。
雨の粒は二人の髪を濡らし、衣服に染み渡っていた。
それでも、葉一は立ち止まらなかった。
どうしても、ほのかに見せたい場所があった。

「ついたよ……」

雨天の下に広がる、黄色い大輪の数々。
そこは向日葵畑だった。

「この前、偶然見つけたんだ」

「すごい……こんなにたくさん」

息を整えてから、葉一はほのかに謝った。

「ごめんね、ほのかちゃん……。でも、ぼく、どうしてもほのかちゃんに見せたかったんだ」

「うん……」

静かに答えるほのかと一緒に、葉一は向日葵の海へ足を踏み入れた。

「――花言葉って知ってる?」

葉一は前方を歩くほのかに向かって話しかけた。

「ヒマワリには、
『あなただけを見ている』
っていう意味があるんだって」

ほのかちゃんが貸してくれた図鑑で読んだんだ、と付け足しすと、はっとしたように、ほのかが振り向いた。
その顔は今にも泣き出してしまいそうだった。

――ぼくもこの向日葵のようにありたい。

そんな台詞が思い浮かぶ程、葉一は大人ではなかった。
しかし、葉一の意図するもの――葉一の抱く強い想いを、ほのかはしっかり受け止めたようだった。

「ありがとう……葉一くん」

ちょっぴり流れ出た涙の雫を拭い、ほのかはにこりと優しい笑みを浮かべた。

一条の光が、天から降り注ぐ。
二人を包み込むように広がり、やがて向日葵畑を輝きで満たしていった。

葉一は、解き放たれたような夏色の空を仰ぎ見た。
ほのかも同じように顔を上げ、眩しそうに天上を眺めた。
しばらくしてから、徐にほのかは口を開けた。

「あたし、いつかY山に友達を連れて行こうと思ってたの」

ほのかは、生前の父の話をきかせた。
ほのかの父は、彼女がいつも傍にいることを喜んでいたが、
一方で心配もしていたのだという。

「いつまでもそれじゃいけないって」

「うん」

「いつかは友達をつくらないとなって、よく言ってた」

ほのかは、その時の会話を思い返し、葉一に教えた。

――あたし、友達できるかな。
――大丈夫さ。きっとできる。
――そうかな。
――ああ。何もたくさんつくれっていうんじゃないよ。
――ひとりでもいいの?
――うん。いいか? たった一人でも仲良くしていれば、その子は大切な友達になる。大切な友達は、どんなときもほのかを助けてくれるし、励ましてくれる。その子は、ほのかの一生の宝物になるんだ。
――宝物? ……本当?
――ああ。本当だとも。
――じゃあさ、お父さんの宝物はなに?
――お父さんの宝物か。
――うん。
――お前やお母さん。家族さ。

「でも、もう大丈夫なんだ」

「どうして?」

「ふふ、ないしょー!」

どこかで蝉が鳴き始めた。
その騒々しい声は、葉一の胸に心地よく響いていた。

「――初めてだったね、手、つないだの」

「あ、ごめん……! ぼく、夢中だったから、つい」

「ううん。ちょっとびっくりしたけどね」

いつの間にか晴れ渡った空は、眩むようにまばゆい光を放っていた。
それが、向日葵の大きな葉の雫を小さく、しかし宝石のように美しく輝かせていた。
向日葵の大輪は、心から笑っているようだった。
その景色の真ん中で、ほのかは幸せそうに微笑んだ。

「――葉一くん」

「うん」

「葉一くんが、Y山に来てくれて、あたし、すっごく嬉しかった」

もし世界で一番の笑顔があるなら……。
ほのかを見てそう考えた葉一は、うんと頷き、同じように笑ってみせた。
なぜだか目元がじんじんとして熱かった。

「葉一くん、泣いてるの?」

「え……違うよ」

ほのかを眼前にして泣いてしまった自分がひどく恥ずかしかった。

「ふふ、泣いてるじゃん」

「雨のせいだよ……」

「もう止んでるよー」

幸せだった。
ほのかから贈られた言葉。
それは、葉一がいつかほのかへ贈りたい言葉でもあった。

「ほのかちゃん」

「うん」

両目を片手でごしごしこすり、目をしばたいてから、葉一は真っすぐほのかを見つめた。


「明日、菊岡くんの家でぼくの誕生日パーティーがあるんだ」

来てほしい――そう言う前に、ほのかの返事があった。

「行きたい! うん、行く!」

「絶対?」

「うん、絶対!」

「じゃあ、約束しよ」

葉一は小指を差し出し、ほのかと指切りをした。
――きっと大丈夫。
――全部うまくいく。
たくさんの願いを込めながら、葉一は蒼穹の下、ほのかと約束を交わすのだった。








8月24日。[l][r]


菊岡邸に着くなり、菊岡は葉一の頭に賑やかな色合いをしたとんがり帽を被せた。[l][r]

「主役は、こうでなくっちゃ」[l][r]

満足した面持ちを浮かべると、菊岡は台所の方へ行ったり、2階へ上ったり、室内を忙しなく駆け回っていた。[l][r]

それが落ち着いたなと思った頃、
[playse storage="ピンポン.ogg" volume=1 gvolume=1 loop=false]インターホンの音が鳴った。[l][r]

[backlay]
[image storage="菊岡リビング.jpg" page=back layer=base]
[trans method=crossfade time=1000]
[wait time=1200 canskip=false]

「お邪魔しまーす」[l][r]

玄関から、喋り声とともに2-1の生徒たちが姿をみせ、葉一のいるリビングに入って、好き勝手にソファやカーペットに
座り込んだ。[l][r]
「早く始まらないかなぁ」[l][r]

総勢10数名に及ぶ、2-1のクラスの生徒たちは、各々くつろぎ、はしゃぎ、
時には葉一に話しかけ、午後10時を待ちわびていた。[l][r]

葉一は、普段会話することのないクラスメイトから声をかけられることがとても嬉しかった。[l][r]

「桐谷くんの桐谷って、かっこいいよなぁ」[l][r]
とか[l][r]
「今度、一緒にうちで遊ぼうよ」[l][r]
とか、誕生日会が始まる前に、話すことが尽きてしまうのではないかーー
リビングには、そんな言葉の数々が溢れていた。[l][r]

「ほのかちゃ……茂上さんは、まだ来てないの?」[l][r]
葉一が尋ねると、[l][r]
「うーん、そうみたい。家が遠いから遅れてくるのかも」[l][r]
と女子が教えてくれた。[l][r]

「はーい! 皆さん、お待ちかね! 葉一くんのお誕生日会の始まりだよ!」[l][r]

わあ、と歓声が上がり、たくさんの拍手が重なりあった。[l][r]



そうすると、どこからか、オルゴールのBGMが流れ始めた。[l][r]

途端に室内は静かになり、菊岡が注目の的になった。[l][r]

何が始まるんだ、という気持ちがその静けさに表れていた。[l][r]
「えっと、実は――」[l][r]
そんな言葉から、菊岡の話が始まった。[l][cm]


「僕はずる休みしていました。[l][r]
いつも、風邪とか嘘ついてたけど……本当はどこも悪くありませんでした」[l][r]

雰囲気のためか、野次を飛ばす者は誰もいなかった。[l][r]

「でも、それを葉一くんは、黙っていてくれました」[l][r]

気恥ずかしくなったのか、菊岡は頭をかく。[l][r]

それから、ポケットから取り出したメモ用紙をちらりと見た。[l][r]

「僕は、その時、葉一くんがとても優しいと思いました。
けれど、葉一くんの優しいところは、それだけじゃありませんでした」[l][r]

訊きながら、なんだろうと葉一は思った。[l][r]

「僕はある日、葉一くんと商店街で悪いことをする不良たちを見ました。小学5年生くらいの男の子からお金を盗ろうとしていました。僕らは逃げました。それから、大人に教えようと話しました。
でも、葉一くんは僕の意見に反対しました。なんでだろうと思いました。
帰ってから、お母さんに話をしたら、こう言いました。
きっと、葉一くんは、邦明に悪い被害が及ばないに考えてくれたんだよ。
どういう意味か訊いたら、葉一くんは邦明を守ろうとしてくれたんだ、とお母さんは答えました。
僕は、驚きました。驚いたし、偉いなと思いました」[l][r]
[fadeoutbgm time=2000]

ぎこちなく菊岡は話しを終え、
[playse storage="拍手.ogg"]

皆は拍手をした。[l][r]

[backlay]
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ごまかすようにそう声を上げた菊岡は、皆をダイニングに誘導し、各々の席へ座るよう促した。[l][r]
[backlay]
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長いテーブルには、見た事もないごちそうが山のように用意されていた。[l][r]




河原に人影はなかった。

葉一は、大声でほのかを呼んで、辺りをくまなく探した。
川沿いを駆けて、茂みを掻き分けて、ほのかへ近づこうとした。

陸に漂着した流木のように、ほのかはいた。
濡れた髪が乱れ、白い頬にまとわりついていた。


「ほのか、ちゃん……?」
確認するように訊ね、伏せる身体に近づいた。

回り込んで、片腕の中の横顔を見た。


安らかな表情だった。

口元は薄らと微笑んでいた。

まるで、幸せな夢でも見ているかのようだった。

声をかけることもせず、身体を揺することもせず、ただただ、
その顔をいつまでも見つめた。


頭の中のスイッチは、止まっていた。


壊れてしまっていた。


ほのかも、ずっとこのままなのだと、葉一は静かに理解した。



ひどく縮み込んだ気がした。

結び目のほどけた風船のように。


小さく小さく……。




あれから、一週間が過ぎた。

確かに通り過ぎたはずの時間なのに、それは夢のようぼんやりとしていた。

横たわるほのかを見つけて、それから……。



永遠に時が止まったように、動かぬほのかと葉一。

どれくらいそうして、冷たく硬直したほのかを眺めていたのか……よく思い出せない。

しかし、日が暮れてから、葉一はY山を降り、ほのかの家へ向かった。



玄関の扉を開けると、待っていたといように、ほのかの母、静香が奥から出てきた。

仕事があったが、胸騒ぎがして、早めに切り上げてきたと言っていた。

虫の知らせ、という言葉を使っていたような気がした。



葉一は静香の顔から視線を下げ、Y山で見たものを短く説明した。

その時、静香の浮かべた狼狽の色がはっきり感じられた。

だが、葉一の記憶に残るものは、廊下にあった水筒だった。

そのステンレスの側面にあった、色褪せたシールの、歪な輪郭。



;---------

;トラディションでその輪郭を強調

;---------



現実を受け止めることができなかったのだろう。

静香の声が張りつめる度、心は遠ざかろうとしていた。

だが、静香はいつもの柔らかな口調を保とうとしていた。

まるで理性を保とうとするように。

お互いに必死だった。

こんな話、あるはずがない。

そうやって胸の奥で、ほのかが何事もなく元気でいることを願っていた。



居間で、静香が電話をかける声を聞き、近づく救急車のサイレンの音を聞いた。

状況を説明する静香と救急隊員たちを案内するため、Y山へ入った。

大人たちに囲まれたほのかは、すぐにタンカーで運ばれ、麓の救急車に乗せられた。

静香は眠るように倒れる娘を見て、悲痛な声を上げていた。

何度もほのかを名を呼び、懸命に助けようとしていた。


けたたましいサイレンとともに大人たちの声は消えた。


病院に運ばれたほのかが目覚めることはなかった。


間もなく葬儀が執り行われたようだった。

ほのかは多くの人々に見送られながら、あの世へ旅立った。

生前の元気いっぱいに笑う遺影と遺骨が、茂上家の仏壇へ収められた。

喪服姿の静香は、弔問の客の対応に暮れていた。

そのいつにもない粛々とした雰囲気を感じながら、葉一は居間で深枝先生といくつか話をした。


先生は、湯のみの茶をすすりながら、葉一に和菓子を勧めた。

何がきっかけだったのかは定かでないが、葉一は自ら疑問を投げかけた。

先生が調べていた、あの「幻想大全」についてだった。



深枝先生は、少し驚いていたが、躊躇わずそれに答えてくれた。

「彼女の家庭のことを知りたくて、お父さんの義之さんのことを調べていたの。
義之さんは、この辺りの歴史について研究されていたみたいで、調べるうちに茂上家の方が、代々、その歴史や伝承を保守し継承してきていることが分かったの」



ほのかの様子がおかしいと告げた8月の登校日以後、深枝先生は、静香に心当たりを尋ねてたそうだ。

その時、ほのかが父の死から大きなショックを受けていたことを知った。

それ以来、おかしなことを口にしたり、奇妙な絵を描くようになったと訊き、深枝先生はひとまず納得をしたようだった。


「――私、先生になる勉強をする前は、ずっと史学を専攻していたの」


先生は、そう切り出し、あのコピー用紙のメモについてを話してくれた。


「義之さん、彼がどんな研究をしていたのか、少し調べていたの。少なからず、その影響がほのかちゃんに及んでいるかもしれないと思って」


そうしている内に、茂上家の人々により編纂された書物があることを知り、その名前と所有する図書館の存在も知ることになった。


葉一と同様に、深枝先生は、幻想大全を紐解き、その内容に目を通した。

だが、そこから得られるものはなかったという。


そこで、葉一は、ほのかが見ていた「赤い鳥」のことを話した。

深枝先生は、きっと辛かったんだね、と答えた。

しかし、その顔はどこか腑に落ちないような表情を浮かべていた。


「葉一君も読んだのよね?」

「はい。ちゃんと全部読んだわけじゃないけど……」

「ヒシとカシのお話は分かる?」


葉一はうんと頷いた。


「先生ね、あの伝承を読んで、ちょっと考えたのよ」


「何を?」


「孤独に打ちひしがれたカシは、最後、自ら命を絶とうとする。
その時、ヒシが現れた。ヒシは恋した女のもとへ行くといい、残されたカシは二人のいる深奥へ旅に出る。ってあったよね」


「うん、覚えてます」


「カシは最後、ヒシに会えて、嬉しかったのかな。ってね、考えたの。独りになってしまったから、ヒシに会えたその時は嬉しかったんだと思う。けど、ヒシは好きだった女のいる元へ行ってしまう。そこは深奥と呼ばれる場所で……きっと果てしなく遠い場所にある」


先生はしばらく黙考していたが、再び話を続けた。


「先生、女やヒシのいる場所に、カシが辿り着くことはない気がするのよね……」

「どうしてですか」

「カシは死ぬ間際にヒシに会えた。そして、命を絶たずに済んだ訳じゃない? 独り苦しんでいたカシにとって、それはきっと幸せだったはず。短いながらも途方もない幸せだった。先生、そう考えているの。だから、その後もこの世に生き続けるカシには、もう何も残っていないような気がするのよね……」


;-----------------

;あずさ編とつなげる

;-----------------


「でも」

先生は、お茶をすすり、遠くを眺めるようにして、

「それでも、カシは歩き続けるのよね……ヒシのいる深奥を目指して」

そう言ってから一呼吸おき、他の話題へ移したのだった。






葉一は、ほのかの死を受け止めていたわけでない。

彼女が溺死して、この世からいなくなってしまったことは理解している。

しかし、今でもほのかはいる。

死んだからといって、彼女を忘れるわけではないし、普段のほのかへの意識が失われるわけでもない。


だが、日に日に、ほのかのいない日常がいかに索漠としたものであるか、痛切に感じるのであった。



ほのかがいない教室。茂上家。Y山。


おかしな話だった。

そこに彼女がいなければ成り立つことのない場所であるのに、
しかし、依然として、それらは存在していた。



葉一には、たくさんの思い出がある。
この河原でほのかと過ごした日々。

全てが大切な財産だった。

これからも、そんな尊いの日々が待っているのだと葉一は信じていた。



「ぼくも、ゆっくりと眠りたいよ……」



いつからか、彼女が夢で見ていたという音楽を求めていた。

何度も何度もY山の川へ潜った。

そうすることで、彼女の苦しみを知ろうとしていたのかもしれない。


半ば狂っていた。

なんのために川の中へ飛び込んでいるのか。

それさえ、分からなくなっていた。



ある日、同級生のマニアをY山へ招いた。


ほのかがここへ来ることを許した唯一の人間だった。

葉一は、マニアを川に潜るよう言った。


「水中から音楽が聴こえる」

そう言えば、きっと興味をもってついて来ると思った。

実際、聞こえるような気がしていた。


ほのかが、死んだ父を求めたように、葉一も、強くほのかを求めていた。


水中にいる間、現実から遠のき、思い出に浸ることができた。


「桐谷くん……もう、やめなよ……」


何度も、水しぶきをあげ、水中へ身を沈める葉一を、マニアは河原で呆然と眺めていた。
夕刻になってから、葉一は岸へ上がり、乱れた呼吸を整えた。


先に帰ってしまったらしく、河原にマニアはいなかった。

独りだった。
葉一は、本当に独りなのだと思った。
でも、振り向けば、すぐ後ろで、おかしそうに笑っている気がした。
それ程までに、ほのかはここにいて当たり前という存在だった。
葉一は、誰もいない河原を歩いた。

ほのかに会いたい。
たったそれだけのことが、今は途轍もなく特別なものに思えた。
そう思えば思う程、葉一はいかに幸せな時を過ごしてきたかを思い知るのだった。





Y山を離れ、茂上家の前に立った。

無言で扉を開けて、玄関に入った。


「ああ、葉一くん、いらっしゃい」

葬儀が終わってからも、静香は多忙を極めていた。
そのために、こうして二人きりになれるまでには多少の時間がかかっていた。

仏間で拝んでから、久しぶりの居間に腰を下ろした。


「葉一くんに渡さないといけないものがあるの」

「なんですか」

「これ……ほら、あの日、葉一くんの誕生日だったから」



手紙だった。

「あの子ね、プレゼントを何しようか、何ヶ月も前から考えていたのよ」

「そうだったんですか」

「あれこれ言いながら私の周りをうろちょろして、これがいいかな、あれがいいかなって、延々悩んでいたのよ。私、家事をしながら話を聞いてやるのが大変だったわ」


小さく笑って、静香は葉一に一枚の便箋を手渡した。


「――結局、手紙にすること決めたみたいね」




;手紙




「よう一くんへ

8さいの
おたんじょう日 おめでとう!
おもいつかなかったから、
これをプレゼントにしたよ
これからも いっしょにあそぼうね

ほのか より」

「あまりあの子の傍にいてあげられなかったこと、今になって後悔してるわ……」

葉一は、自責する静香の言葉を聞いてすぐ、涙を隠すように礼をして、屋外へ飛び出した。

それから誰もいない場所で、立ち止まり、便箋を強く握り締めた。

握り締めながら、葉一は大声で泣いた。
張り裂けんばかりの悲しみ、苦しみ……。
それらが全部涙になって溢れ出てた。


茂上ほのか。

どんな時も、笑顔で自分を受け入れてくれた。

大きな問題を抱えながらも、たった一人でそれに立ち向かっていた。

誰よりも大切な友達だった。

大好きだった。

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