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2014年


4月05日





あれから、一週間が過ぎた。

確かに通り過ぎたはずの時間なのに、それは夢のようぼんやりとしていた。

横たわるほのかを見つけて、それから……。

葉一はY山を降り、ほのかの家へ向かった。
玄関の扉を開けると、待っていたといように、ほのかの母、静香が奥から出てきた。
仕事があったが、胸騒ぎがして、早めに切り上げてきたと言っていた。
虫の知らせ、という言葉を使っていたような気がした。

葉一は静香の顔から視線を下げ、Y山で見たものを短く説明した。
その時、静香の浮かべた狼狽の色がはっきり感じられた。
だが、葉一の記憶に残るものは、廊下にあった水筒だった。
そのステンレスの側面にあった、色褪せたシールの、歪な輪郭。
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;トラディションでその輪郭を強調

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静かに翳る 歪な模様画像
現実を受け止めることができなかった。
静香の声が張りつめる度、心は遠ざかろうとしていた。
そのせいでか、いつも意識されないようなものが、
色濃く印象に残っていた。


静香はいつもの柔らかな口調を保とうとしていた。
その気丈さには、
まるで理性を保とうとするように。
お互いに必死だった。
こんな話、あるはずがない。
そうやって胸の奥で、ほのかが何事もなく元気でいることを願っていた。


居間で、静香が電話をかける声を聞き、近づく救急車のサイレンの音を聞いた。
状況を説明する静香と救急隊員たちを案内するため、Y山へ入った。
大人たちに囲まれたほのかは、すぐにタンカーで運ばれ、麓の救急車に乗せられた。
静香は眠るように倒れる娘を見て、悲痛な声を上げていた。
何度もほのかを名を呼び、懸命に助けようとしていた。
けたたましいサイレンとともに大人たちの声は消えた。
病院に運ばれたほのかが目覚めることはなかった。


間もなく葬儀が執り行われた。
ほのかは多くの人々に見送られながら、あの世へ旅立った。
生前の元気いっぱいに笑う遺影と遺骨が、茂上家の仏壇へ収められた。

喪服姿の静香は、弔問の客の対応に暮れていた。
そのいつにもない粛々とした雰囲気を感じながら、葉一は居間で深枝先生といくつか話をした。

先生は、自責の念に苛まれていたようで、度々、自身を責める言葉を漏らしていた。
その姿は担任の教師という立場を感じさせなかった。
あくまで、ほのかを救えなかったという現実に悔いる、一人の人間としての言葉だった。
葉一は、それが深枝先生の優しさなのだと思っていた。
「ほのかちゃんね、死因が不明なんだって」
「どういうことですか……?」
「普通、どうして亡くなったのか、調べると理由が分かるの」
ほのかは何か持病を持っていたわけでもなく、唐突に死んでしまったのだと先生は説明した。
「でも……ほのかちゃん、ずっと苦しんでいたんです」
そう言葉にするのが苦しく、葉一は絞り出すように声を発した。
「そうね……。お母さんから医者にかかって、詳しい検査を受けたことを聞いたのだけど……何も分からなかったんだって」
「はい……ほのかちゃんから聞きました」
「そんなはずないのにね……」
深枝先生は、露になろうとする感情を押し込むように、低く呟いた。
その感情は紛れもなく怒りであり、悔しさであり、途方もないような、深い悲しみであった。

「先生……あのう、教えてください」
葉一の胸には、いつまでも消えない光景があった。
質問をすると、深江先生は少し驚いていたが、登校日の教室でのことを思い出したようで、納得したようだった。
「ほのかちゃんについて調べてるって……確か先生は言ってました」
その言葉を聞いて不安になり、葉一は、独り図書館で幻想大全を紐解いたことを先生に告げた。

「ごめんなさい。先生、余計なことを話してしまったね……」
「どうして、あの本を調べていたんですか?」
「茂上さんのお家が少し珍しいなって思ってね。特にお父様がどんな研究をされていたのか気になって、個人的に調べていたの」

幻想大全の著者の名は「茂上」であったが、やはりほのかの苗字と関係があったのだと葉一は聞き知り、俄に胸を高鳴らせた。
書物を読んだ後に味わった、漠然とした不安。
偶発的であったといえ、それが確かに葉一の心を脅かしていた。
それが、ほのかを蝕む「何か」と結びつき……葉一はひどく恐怖したのだった。

「――難しかったでしょう?」
「はい……でも、なんとなく分かりました」
「先生も読んでみたんだけど、ヒシとカシの話――あれが、印象的だったわ」

先生はちゃぶ台の上の湯のみに手をつけ、お茶を啜った。
葉一はほのかの母親が用意してくれた、幾つかの和菓子を食べるように言われ、促されるまま一つ手に取って口に運んだ。
そうしながら、ほのかの精密検査の結果が「異常なし」であり、死因が「不明」であったことを考えた。

幻想大全に記されていたものにより、ほのかは命を失った。
失ったというより、奪われた、という感じがした。
葉一は、ほのかが口にした言葉の数々を思い返す。

父親に会いたいと願い続けたほのかは、その姿や声を見聞きしていた。
だが、それは偽りの存在であり、ほのかの言うところの「ウソのお父さん」「違う**」であった。
それがほのかの精神を狂わせ、死に至らしめた……。
そう推測することが、ほのかと接してきた葉一にとって自然であったが、しかし、それらが幻想大全と、どう結びつくのか分が判然としなかった。
しばらく黙考していると、深枝先生が口を開けた。

「先生ね、あの伝承を読んで、ちょっと考えたのよ」
「何をですか」

「孤独に打ちひしがれたカシは、最後、川に身を投げ、自ら命を絶とうとする。その時、ヒシが現れた。ヒシは恋した女のもとへ行くといい、残されたカシは、ヒシを求め旅に出る……ってあったよね」

「はい、覚えてます」

「カシは最後、ヒシに会えて、嬉しかったのかな? ってね、考えたの。最初は敵同士だったけど、独りになってしまったから、カシにとってヒシは、いつの間にか大切な存在になっていたようね。だから、ヒシに会えたその時、すごく嬉しかったんだと思う。けど、ヒシは好きだった女のいる元へ行ってしまう。そこは……きっと果てしなく遠い場所にある」

先生は口を閉ざし、しばらく黙っていたしていた。
何か思うところがあるようだった。
葉一も、今回のほのかの死の原因を探る思いで、静かに考えを巡らせていた。

「先生、ヒシのいる場所に、カシが辿り着くことはない気がするのよね……」

「どうしてですか」

「カシは死ぬ間際にヒシに会えた。
生きるか死ぬかの瀬戸際できっと、もう一度、ヒシに会いたいって強く願ったんだと思うの。たとえ、どんな犠牲を払おうとも、カシはその思いを覆さなかったと思うわ。でも、カシは生き長らえた」

葉一には、いつものおっちょこちょいの深枝先生が別人のように映ってみえていた。

「生きていても、もう幸せを掴むことはないって、先生そんな気がするのよね。だって、最後の最後に願いが叶ったんだから」

確かに、願いを叶え、尚且つ、命を落とさなかったのは、どこか都合のいい話のように思えた。

「でも」

先生は遠くを眺めるようにして、

「それでも、カシは歩き続けるのよね……ヒシの元へ辿り着くまで」

そう言ってから一呼吸おき、茂上家を訪れた何人かの学校の教員の元へ移っていった。


・学校
ほのかのいない新学期の教室

・暴力 チョッキンぼうやの本

・夢 水中音楽 河原マニア 幻想編のマニアの日記の日付と照合

・静香 日記――葉一との出会い、思い出、そして蝕まれるほのか

静かに翳る 動物人間

しかし、ボロボロだったな、この辺り。

静かに翳る MADOROMI

静かに翳るは、ほのかの死が、葉一の人生を狂わせたお話。しかし、なんだこれは。適当に葬式やって終わりですか……。

静かに翳る 動物人間

殺して楽しいシナリオ作り(笑)さぞ楽しかったろうな??

静かに翳る 幻の麻野

まあまあ、そこまで言わないでも……。

静かに翳る MADOROMI

ほのかが死ぬ直前から死後の描写は浅かったよ……。幼い葉一があんな風になってしまう程、ほのかの死は、それほど重大なこと出来事だったのか? そもそも、死が人をあれほど豹変させることがあるのか?

静かに翳る MADOROMI

一番深く考えるべきところだったと思う。反省点です。

静かに翳る 動物人間

茂上義之に関しても、死因は「持病」で片付けてしまっているしな。

静かに翳る MADOROMI

もし実際に大切な人を失ってしまった方が読めば、言葉足らずで大層不快だろし、その経験がない人に至っては全く何も伝わらないだろうと思う。伝わらないから、葉一に感情移入ができない。ほのかや茂上静香にしてもそう。

静かに翳る MADOROMI

「創作においての人の死を扱うことについて」云々という話がよくあるけれど、今回は前作「暗澹たる闇を」に比べ、より現実味のある世界観だからこそ描ける不気味さ、恐怖感が最大の特徴になっているし、そういう物語の中で生まれる「死」だからこそ、普遍的な故人への想いが描けるのだと思う。

静かに翳る エッグ

こんかいも?シュールやアンニュイ(けだるさ)あるよ!

静かに翳る 動物人間

黙ってろ。

静かに翳る MADOROMI

んで……それだから、現実世界を感じさせる「リアリティ」は、深く追求すべきで、これに欠けると必然的に「死」の持つ力も損なわれてしまう。

静かに翳る 動物人間

読者はリアルで生きてんだ、当たり前だろ。

静かに翳る 幻の麻野

しかし、ただただ写実画のように精密に描くだけでは、創作物ではなく記録になってしまいますよね。

静かに翳る MADOROMI

はい。あくまで、読者に物語を想像させ、感情を沸き立たせるための「リアリティ」であって、そのために無駄な情報を省くことも必要だと思います。

静かに翳る MADOROMI

あ、ちなみに、ヒシはヒイシの原型、カシはクナの原型のことです。ヒシカシではどっちがどっちか分からなくなるよね……。

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